日本経済の動向

日本経済の動向
2020年6月号 No.519

未曽有の危機をいかに乗り越えるか コロナ・ショックと世界経済・日本経済

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に見舞われている世界経済。日本でも4月7日に政府が緊急事態を宣言した。コロナ・ショックにより、世界経済・日本経済は目先、急降下に直面することが避けられないだろう。そこで今回は、今後の経済をどのように展望するべきか、見通しと留意点について考察する。

目先は極めて厳しい経済環境を覚悟

新型コロナウイルスの感染は、世界経済が減速しているなかで始まった。一昨年来の米中貿易戦争によって製造業が世界的な不振に直面した一方で、サービス業が相対的に底堅さを維持していたが、そのサービス業が今般のショックで壊滅的な打撃を受けている。

欧米では3月中旬以降、主要都市がロックダウン(封鎖)され、幅広い分野で個人消費が大幅に抑制されている。2020年4~6月期の欧米におけるGDP成長率は、前期比年率で20~30%程度の未曽有の落ち込みとなるがい然性が高く、日本経済も欧米ほどではないが大幅な落ち込みとなろう。日米欧とも四半期としては08年の世界金融危機時を上回る戦後最大の経済収縮になる。

メインシナリオとしては、年央頃までには感染拡大が一服し、年後半以降に経済活動が徐々に回復に向かうものと見たい。その場合でも20年通年では世界経済、日本経済はともにマイナス成長になる可能性が高い。もっとも、感染の収束、経済活動の正常化のタイミングやペースについては極めて不確実性が高い。ウイルスという見えない敵との戦いが想定以上に長期化する恐れもあり、予断を持たずに対処することが求められる。

国際金融面で留意すべき3つの「E」のリスク

コロナ・ショックは基本的には感染症拡大に伴う一時的な需要減少と供給途絶に伴う経済ショックである。しかし、グローバル金融市場が前代未聞の変動に見舞われていることには留意が必要だ。

第一に、原油価格の急落に伴うエネルギー(Energy)セクターを起点とした信用リスクの高まりである。世界的な需要の冷え込み、産油国の協調減産体制のほころびによる供給圧力の増大から原油価格が急落、不安定な展開が続いている。米国では昨年までの景気拡大のなかで企業債務が過去最高水準にまで膨れ上がっており、とりわけ信用力が劣る企業で「低格付け社債」などでの債務が積み上がっている。低格付け社債市場ではエネルギーセクターが最大の資金調達主体であり、原油安に伴う企業破綻の増大が懸念される。

第二に、新興国市場(Emerging Market)への影響である。超低金利環境の下での「利回り狩り」の投資マネーの流入により、新興国の債務は過去最大の規模に拡大しており、そうしたマネーが今般のショックに伴い新興国から流出している。また、世界的に新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、医療体制の整備が十分でない新興国の政治・経済・社会への影響にも注意が必要である。

第三に欧州(Europe)の金融問題に与える影響も注視を要する。欧州域内ではイタリアとスペインでの感染がとりわけ顕著であり、両国のファンダメンタルズは、域内では相対的にぜい弱と言わざるを得ない。イタリアの不良債権比率は近年低下傾向にあるが、引き続き7%超と高水準であり、スペインでも3%台半ばとEU域内の平均より高い。
何れもブラジル、メキシコ、ロシアといった産油国に対する国際与信が大きい。コロナ・ショックによるファンダメンタルズの悪化が、欧州域内での金融問題の顕在化をもたらすリスクもある。

求められる政策総動員と3つの「C」

戦後最大とも言える新型危機に直面するなか、実体経済の落ち込みと金融市場の調整に伴うリスクを少しでも抑制するために、各国で財政・金融両面で異例の政策対応が採られている。何よりも迅速かつ機動的な実行が急務であるとともに、追加的な支援措置も必要となってこよう。

この国難の中で、われわれに求められているのは3つの「C」ではないだろうか。第一がケア(Care)である。感染抑制や事業継続に向けた「細心の注意」であり、お客さま、従業員や経済的・社会的弱者に対する「思いやり」でもある。第二がコラボレーション(Collaboration)である。官民挙げての協力、業界内、あるいは業界の垣根を超えた協力、そして国際協力が不可欠だ。第三が、やや露骨だが、キャッシュ(Cash)である。感染長期化のリスクも見据えた現金、流動性の確保も必要だろう。

英語のCrisisはギリシャ語のkrino(決断する)に語源があるとされる。コロナ・ショックによる新型危機を、政府、企業、われわれ一人ひとりの「決断」により、何としてでも乗り越えていきたい。

 

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