経済動向

経済動向
2020年3月号 No.516

気候変動の経済・企業への影響を考える

気候変動リスクが世界経済にとっての最大リスクという認識が広がっている。欧州委員会が昨年秋に発表
した世論調査では、世界が直面する最も深刻な問題として気候変動を挙げた回答者は、国際的なテロリズム、
経済環境、軍事衝突の回答を上回っている。地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」の適用も本年1月から始まった。今回は、気候変動に伴うリスクについて考察する。

激甚化する自然災害に伴うリスク

気候変動に伴うリスクとしてまず物理的なリスクがある。厳密に言えば因果関係が証明されているわけではないが、日本も含めて自然災害が近年増大・深刻化していることと気候変動は無縁ではないだろう。自然災害に伴う世界全体での経済的コストは、地震災害を除いても年間1000億ドル超に達しているとの試算が一般的だ。全米経済研究所によれば、気候変動対策が採られない場合、2100年までに一人当たりGDPは、世界全体で7%以上押し下げられるという。

低炭素化社会への移行に伴うリスクも

そうした自然災害に見舞われる中で、世界は否応なしに低炭素化社会へ移行して行かざるを得ないが、その移行自体も大きなリスクとなってくる可能性が高い(図表)

(注)座礁資産:市場・社会環境激変により価格が大幅に下落する資産
(資料)NGFS(Network for Greening the Financial System)よりみずほ総合研究所作成

低炭素化に伴う規制や消費者の選択変化に伴って、企業が生産コストの増大や既存商品の売上減少に直面することが予想される。

また、低炭素化に伴い、化石燃料に関するさまざまな有形資産の価値が減耗し、企業にとっての償却負担が増す可能性もある。低炭素化により価格下落に見舞われる資産は「座礁資産」と呼ばれ、国際再生可能エネルギー機関によれば、その規模は2050年までに、最大20兆ドルにまで拡大すると試算されている。

既にグローバルな投資家の間ではESG投資(環境・社会・企業統治といった要素を重視した投資)が広がりつつある。加えて、気候変動への対応が金融機関の貸出行動や中央銀行の金融政策にも影響を及ぼしていくことも考えられる。欧州中央銀行(ECB)はその金融政策の戦略見直しの一環として、いかに気候変動問題に貢献していくかという議論を2020年に深めて行く方針だ。

気候変動への対応の遅れは、今や企業にとって「レピュテーションリスク」では済まされず、“今そこにある危機”との認識が求められている。

気候変動を巡る国際的な議論の行方と日本

もっとも、欧州での議論がやや先行し過ぎている感がない訳ではない。欧州委員会は昨年12月に就任したフォンデアライエン委員長の下で「欧州グリーンディール」政策を発表、2020年にはより具体的なロードマップが示される見通しだ。

欧州は古くから「環境先進国」だが、グローバル戦略の一環としても気候変動問題において主導権を発揮し、かつ域内での求心力を維持・向上させることを狙っていると見られる。また、域内での政治的な事情も無視できない。近年の域内選挙では、環境保護政党の躍進が顕著。伝統的な既存政党としても、支持離れに歯止めをかけ、欧州の分断を招きかねない極右勢力の台頭を抑制するためにも、環境重視を打ち出していかざるを得ない面もある。

米国トランプ政権は、国連にパリ協定からの離脱を正式に通告(昨年11月4日通告。脱退発効は1年後)したが、州政府や民間企業では気候変動への対応を強化する動きがあることは見逃せない。今秋の大統領選挙に向けて民主党候補は環境重視を打ち出しており、気候変動は選挙戦でも重要な争点の一つとなる。大統領選挙の結果が、気候変動に対する国際的な議論の行方に影響することも考えられよう。

日本として、また日本企業として気候変動といかに対峙していくか。その戦略が問われる2020年となる。

 

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