建設経済の動向

建設経済の動向
2020年3月号 No.516

誤診断や“変な橋”への対応を考える機会に

5年にわたる道路橋の点検が終わり、2巡目の点検フェーズに入っている。しかし、1巡目の点検で浮かび上がってきた課題への対処はまだ不十分だ。2巡目の点検機会を橋の維持管理プロセスを改善する好機としていかなければならない。

中央自動車道の笹子トンネルの天井板崩落事故を受けて義務化された橋の定期的な近接目視点検。最初の5年間の点検が一巡し、全国のインフラの点検はほぼ100%進んだ。一見、順調に維持管理の取り組みが進んでいるような格好となっているものの、実際には課題が山積している。ここでは、そのうちの3つを紹介する。

1つ目が健全度の判定だ。例えば、ある市で次のような診断例が実際にあった。市が委託した建設コンサルタント会社は、張り出し床版部で鉄筋が大きく露出している状況を見て、早期に措置を講じる必要がある「Ⅲ」と劣化度を診断した。

ところが、国土交通省の技術者に相談したところ、張り出し床版の鉄筋露出だけで、荷重があまりかからない所なので、健全度は「Ⅱ」でよいのではないかと助言を受けた。最終的に健全度は「Ⅱ」に変更された。こうした事例は、決して特殊なものではなく、ほかの自治体でも見つかっている。島根県内のある橋で診断結果を橋梁調査会などの専門家に精査してもらったところ、当初の診断で健全度「Ⅲ」と判定していた部位の多くが、健全度「I」に相当していた。

劣化の状態を厳しめに判定する実務者の心理が影響
している可能性があるが、こうした誤診が増えると、橋の補修費用が無駄にかさむ恐れがある。本来、ほかの橋の補修に回せる費用を失ってしまうリスクになる。

マニュアルにない橋まだ残る未点検の橋

橋の点検や診断で実務者を悩ませる2つ目の課題は、道路示方書などには掲載されていないような変わり種の橋が数多く存在する点だ。

奈良県生駒市内にはこんな橋があった。橋脚、主桁などの主要部材が全てH形鋼の橋だ。主桁の上に床版代わりに鋼矢板を載せていた。自治体が実際に点検・診断する橋には、専門家が「仮設橋としても一般的な構造ではない」構造物が入っている場合がある。こうした橋でも慎重にその安全性を評価し、適切な保全措置を講じていかなければならない。

最後に紹介するのは、未点検の橋だ。道路橋の点検は100%完了したと思われているものの、実はまだ点検が終わっていない橋は残っている。いわゆる里道橋だ。

近接目視点検が義務付けられた橋は、道路法で規定する道路上の橋長2m以上の橋などだ。それ以外の橋に対して、点検や診断の義務はない。それでも、市民の利用頻度が高い橋などであれば、自治体も無視することは難しくなる。対応を迫られた一例が大阪府枚方市内に架かる道路法に規定されていない橋だ。長さ約8m、幅員4mで、特殊な構造を持っていた。損傷状況がひどく、市は応急橋を架ける羽目になった。

橋の点検・診断の2巡目は、これまでの診断結果を見直したり、診断の手法をより合理的に進めたりする格好の機会となる。まずは橋を管理する自治体などの積極的な取り組みに期待がかかる。

大阪府枚方市で架け替えられた仮設橋
(写真:日経コンストラクション)

 

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