経済動向

経済動向
2019年11月号 No.513

米中通商摩擦の行方をどう見るか 米中新冷戦に伴う3つのリスク

 今後の世界経済を考える際の最大の焦点は、米中通商摩擦の行方だろう。大統領選挙を来年に控え、トランプ大統領は再選の芽を摘みかねない経済失速を回避するためにも、中国との合意を模索することになろう。「貿易戦争」は「一時停戦」に向かうと展望するが、合意が成立するか、成立したとしても持続するか確信が持てないのも事実である。今回は、この米中通商摩擦に伴うリスクについて考察する。

貿易戦争に勝者なし

米中両国の「仁義なき戦い」が続いている。2018年7月に始まった米中の制裁関税の掛け合いがエスカレートしており、19年9月には、米国はいわゆる対中制裁関税第4弾に踏み切った。米中通商摩擦が米中二国間の貿易量の急減を招来しており、二国間のみならず、世界の貿易が収縮しつつある。貿易縮小に伴うマイナス効果に加えて、企業の投資マインドも萎縮しつつあり、世界経済を下押ししている。みずほ総合研究所の試算では、米中の制裁関税が全て実施された場合には、世界経済の成長率は約0.7%押し下げられることになる。

国別では中国が最大の影響を被り、日本への影響は比較的軽微という計算にはなるが、重要なことは「貿易戦争に勝者なし」ということだ。中国が打撃を受ければ、当然影響は世界に伝播し、株価や為替など、金融市場を通した間接的な影響も無視できないだろう。貿易戦争が高じれば、世界経済が失速、景気後退入りを余儀なくされる可能性が高い。その際には、リーマンショック時に、日本経済が震源地の米国を上回る「最大の被害者」となったように、輸出の減少と円高の進展により、日本経済が想定以上の被害を受ける可能性が高い。

米中の「デカップリング」シナリオ

米中通商摩擦は単なる貿易不均衡の問題だけでなく、米中の国際的な覇権を巡る攻防としての問題でもある。米国は明示的に中国を安全保障上の脅威として位置付けており、ハイテク・軍事技術での競争優位を維持するために、米国の対内投資、輸出管理、あるいは政府調達など、さまざまな規制によって中国企業を事実上排除する動きを強めている。

2020年にかけては、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA、18年8月成立)、中国を念頭に入れた新ココムとも称される輸出管理改革法(ECRA、18年8月成立)の詳細な規則が明らかとなる予定である。ココムは冷戦下での対共産圏向けの輸出を統制した組織であり、まさに世界は新冷戦に向かっているといわれるゆえんだ。

中国は今やグローバルなサプライチェーンネットワークの要にあり、米中の新冷戦はそうした現代の国際分業体制を棄損させかねないものである(図表)

その寸断・棄損は二次的、三次的な影響なども勘案すれば、世界経済に甚大な影響を及ぼすだろう。1980年代後半以降に進んだ経済のグローバル化や市場化は、米ソ冷戦の緊張緩和、終結によって後押しされたものだ。仮に米中の新冷戦によって時計の針が逆戻りし、米中が分断され(デカップリング)、ヒト、モノ、カネの自由な移動が滞るようなことがあれば、世界経済、そして企業経営のあり方は根底から覆されよう。

中国の統治構造への影響も

米中対立が、中国が抱えるさまざまな問題を炙り出すシナリオも考えられる。経済への下振れ圧力が強まれば、企業の過剰債務問題、その裏側にある金融機関の過剰貸出問題、換言すれば不良債権問題が顕在化する恐れもある。また、米国が中国に対して解決を求めている補助金などの構造的な問題は、中国の統治構造にも影響を与えかねない。中国の人権問題にスポットライトが向けられる可能性もある。こうした問題が表面化すれば、中国といえども国内での政権指導部への風当たりが強くなり、政権基盤が揺さぶられるリスクもある。中国の統治構造が万が一問われることがあれば、それはそれで大きなリスクである。

 

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