建設経済の動向

建設経済の動向
2019年3月号 No.506

インフラ維持に30年で195兆円

国土交通省は、道路や河川などのインフラを維持していくのに必要な将来費用を試算した。不具合が生じる前に対策を行う「予防保全」を基本とする場合、2048年度までの30年間にかかる維持管理・更新費は合計で最大約195兆円という結果になった。また、不具合が出てから対処する「事後保全」に比べて、費用を大幅に削減できる見通しも明らかにした。

道路橋やトンネルなどに義務付けられた5年に1回の定期点検が、今年度末に一巡する。2019年度からは2巡目の点検に入るとともに、1巡目の点検結果を受けた修繕も始まる。老朽化する構造物の数が増えるのと相まって、今後はインフラの維持管理により多くの費用がかかることが予想される。
こうしたなか国土交通省は、2018年11月末に開催した経済財政諮問会議の作業部会で、道路や河川などのインフラを対象とした維持管理・更新費の試算結果を発表。2048年度までの30年間で、176兆5000億~194兆6000億円に上ることが明らかになった(施工条件や単価の変動を考慮し、幅を持った推計値を提示)。対象となるのは、道路、河川・ダム、砂防、下水道など国土交通省が所管する12分野の施設で、厚生労働省所管の上水道などは含まない。鉄道会社や高速道路会社の施設も対象外だ。
ベースとなる推計値は、2018年度の5兆2000億円。それが2023年度には5兆5000億~6兆円、2028年度には5兆8000億~6兆4000億円、2048年度には5兆9000億~6兆5000億円となる。下図に、最大値をとった場合の年度別の推移を示した。維持管理費がピークとなるのは26年後の2044年度で、最大値は7兆1000億円と2018年度の1.4倍となる。

図 分野別の維持管理・更新費の推計結果(2018年度) 

施設別では、道路が16年後の2034年度にピークに達し、その後も高水準で推移する。河川・ダムや砂防、海岸、下水道も2030年代半ばまで増え続け、そのまま2018年度の1.5倍程度が続く。

予防保全でなければ最大280兆円
長寿命化で3割以上の費用削減効果

国土交通省は中央自動車道・笹子トンネルの天井板崩落事故があった翌年の2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置付け、同年度時点でのインフラの維持管理・更新費用を推計した(この時の推計対象は同省所管の10分野の施設)。この推計では、道路や下水道などの一部の施設で、劣化が軽微なうちに補修して寿命を延ばす「予防保全」の考え方に基づいたが、官庁施設や公園などは損傷してから対処する「事後保全型」で計算していた。その結果、年間の費用が20年後の2033年度に最大で1.5倍になるとしていた。
一方で今回の推計では、全てのインフラで予防保全を進めることを前提とした。その結果、20年後、30年後ともに、年間の費用は2018年度に比べて最大で1.3倍に抑えられた。30年間のトータルで見れば、予防保全の場合の最大値が194兆6000億円なのに対し、事後保全型は284兆6000億円。予防保全の全面導入で、維持管理・更新費を32%削減できるとしている。
予防保全で出費が抑えられるとはいえ、今後は税収の減少や担い手不足による労務単価の高騰なども予測され、維持管理費を確保していくのは容易ではない。国土交通省では、新技術の開発・採用や各種データの積極的な活用、維持・補修に関する入札契約制度の見直しなども進めながら、持続的・実効的なインフラメンテナンスの実現を目指していく。

 

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