建設経済の動向

建設経済の動向
2018年9月号 No.501

「南海トラフ」で長期損失1240兆円

土木学会は、今後発生が予想される大規模災害による経済損失額を検討。南海トラフ地震の場合、発生後20年間の累計で経済損失が1240兆円以上に及ぶと試算した。建物やインフラの直接的な被害額とは異なり、災害の影響による生産や所得の減少などを中長期的に推計したのが特徴だ。一方で、防災・減災対策の経済効果が大きいことも示し、「国土強靭化」の早期実現を求めた。

土木学会の「レジリエンス確保に関する技術検討委員会」(委員長:中村英夫・東京都市大学名誉総長)は6月、南海トラフ地震と首都直下地震の2つの巨大地震と津波、3都市圏の大規模な高潮・洪水を対象に、一定期間の経済損失や税収の減少額を試算。例えば南海トラフ地震の場合、発生後の経済損失は20年間の累計で少なくとも1240兆円に及ぶことが分かった。
地震と津波の被害推計では阪神・淡路大震災のデータを基に20年間、高潮と洪水による水害は2015年の鬼怒川の堤防決壊を基に14カ月間として、それぞれ最低限度の被害額を算出している(下図)。

図 巨大災害による経済損失と対策効果

南海トラフは38兆円の対策で509兆円の効果
スーパー堤防整備で洪水による経済損失はゼロに

南海トラフ地震の場合、道路網の寸断や生産施設の損壊などで1048兆円、港湾の機能不全などで192兆円、合計1240兆円の経済損失が生じるとみている。加えて、内閣府は地震や津波による建物損壊など直接的な資産被害を170兆円と試算。両者を合わせると、南海トラフ地震の被害総額は1410兆円に上る。また、首都直下地震では、経済損失が731兆円、直接的な資産の被害が47兆円で、合計778兆円と試算した。
試算の対象期間が短い高潮や洪水の被害額は地震に比べて少ないが、大阪湾を巨大な高潮が襲った場合の経済損失は65兆円に及ぶ。洪水では東京の荒川の堤防が一部決壊するパターンを想定し、経済損失は26兆円に上るなどとしている。
一方で、防災・減災対策による被害の軽減効果も試算。様々な公共インフラ対策で、経済被害を3分の1から6割程度、軽減できることを示した。南海トラフ地震の場合、道路や建物、港湾などの耐震強化に38兆円以上の事業費を投じれば、経済損失を509兆円低減できるとみる。
大阪湾の高潮の場合も、海岸堤防の整備に6000億円を投じれば、想定される経済損失のうち、約半分の35兆円を抑制できる。3都市圏の洪水対策では、一部の区間で高規格堤防(スーパー堤防)を整備すると想定。東京の荒川と大阪の淀川では想定した箇所の決壊を防ぐことができ、経済損失はゼロになるとした。

「対策をした方が総税収は増える」
15年以内をめどに対策の完了を提案

今回の被害想定は、税収への影響にも焦点を当てたことも特徴だ。南海トラフ地震では、長期的な経済活動への打撃によって税収が131兆円減ると試算。ただし、防災・減災対策を実施すれば、投じる費用を上回る54兆円の税収減回避が可能だとしている。
この試算を基に、「対策をする方が総税収が多くなる」と指摘。一般的に、財政難を理由に防災・減災対策が先送りされることは珍しくないが、報告書は「巨大災害に対する公共インフラ対策は、財政構造の健全性を守るためにも不可欠だ」と強調している。
また、対策の実施時期にも言及。例えば、南海トラフ地震が今後30年間に発生する確率は70~80%と推計されている。このデータを基に、発生確率が50%となる年次は13~17年程度と試算。これを根拠として、50%の確率で「間に合う」15年以内をめどに、対策を完了させるよう提案する。

 

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