建設経済の動向

建設経済の動向
2024年2月号 No.555

スポーツ施設がまちづくりの核に

トップアスリートの活躍によって2023年はスポーツの話題が尽きなかった。スポーツというコンテンツの力は、ファンを魅了するだけでなく、地域振興の起爆剤にもなる。まちづくりの核として機能する事例や新たな地域振興を目指した取り組みが全国で進みつつある。国の施策とともに、スポーツ施設の可能性を探る。

3月のワールド・ベースボール・クラシックでの日本代表の優勝や8〜9月のバスケットボールのワールドカップでの日本代表の活躍。10月にはバレーボールのパリ五輪予選で、日本男子代表が出場権を獲得した。国内では阪神タイガースとオリックス・バファローズのリーグ優勝で関西が盛り上がるなど、2023年はスポーツ分野の話題が豊富な1年だった。

このスポーツが、地方創生や地域振興の大きな武器になりつつある。スポーツ庁と経済産業省が2023年7月に公表した「第2期スポーツ未来開拓会議」の中間報告では、スタジアム・アリーナ改革を軸とした戦略を打ち出している。

ここでポイントとなるのは、「『みる』スポーツ」だけでなく、「地域スポーツ」と両立させて成長産業にするという点だ。文部科学大臣が2022年3月にまとめた第3期スポーツ基本計画では、スポーツ市場の規模を2025年までに15兆円とする目標を示しており、施設を含めた環境整備や観戦型スポーツツーリズムなどの施策を打ち出している。

2023年にスポーツ施設を核としたまちづくりで成功を収めた事例の一つが、北海道日本ハムファイターズの拠点となった「エスコンフィールドHOKKAIDO」を中心とした「北海道ボールパークFビレッジ」だ。プレオープンした3月から9月末までに303万人が来場した。年間目標を半年強で実現した格好になる。

特筆すべきは野球観戦以外での来場者が全体の3分の1を占めた点だ。敷地内にグランピング施設や子どもの遊び場を設けるなどした点が奏功している。プロ野球を開催していない冬季の集客も考慮して、スキーを楽しめる施設を11月にオープンしたり、今後は大学キャンパスや病院の新設を見据えたりするなど、戦略的なまちづくりを進めている。

 

Bリーグ改革に向け施設整備
主導する自治体を増やせ

2026年のプロバスケットボールリーグ「Bプレミア」の開始を見据えたアリーナ整備も盛んになっている。同リーグに参加するためには、客席数5000以上やスイート・ラウンジといった施設を2028~29シーズン開幕に備えて整備する必要があるからだ。

アルバルク東京がトヨタ自動車やトヨタ不動産と協力して東京・青海に整備する「TOYOTA ARENA TOKYO」や三井不動産とミクシィが建設を進める「(仮称)ららアリーナ東京ベイ」などは24年から25年にかけて開業する予定だ。このほか、ディー・エヌ・エーと京浜急行電鉄が整備するアリーナを含む複合エンターテインメント施設「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」なども注目の施設となる。施設開発は首都圏に限ったものではなく、九州や関西、東海地方でもアリーナ計画が着実に進展している状況にある。

こうしたプロスポーツの施設では、民設民営の施設が少なくないが、地域スポーツの裾野を広げるうえでは、市民に身近な施設整備も重要になる。例えば、学校の体育館などの活用はその一手となる。こうした施設において、一般利用などを念頭に置いたシャワー室や観客席の増設などの施設の高度化は分かりやすい例だ。スポーツ施設を核としたまちづくりにおいて主導的な役割を果たせる自治体を増やしていくことが急務になってくる。

世界初の球場内天然温泉・サウナ施設を抱えるエスコン・フィールドHOKKAIDO。4階・5階にはホテルも入る(写真:日経クロステック)

 

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