日本経済の動向

日本経済の動向
2023年11月号 No.553

グローバルインフレからローカルインフレへのシフト

2021年の初め頃から、世界全体での物価上昇(インフレーション)の進展、いわゆるグローバルインフレが注目されてきたが、足元では地域によりインフレ圧力に差が生じ、グローバルインフレからローカルインフレへのシフトが起こっているといえる。そこで今回は、この変化の背景を解説するとともに、日本の物価の行方について考察する。

地域により異なるインフレ事情

「グローバルインフレ」という言葉が脚光を浴びはじめたのは2021年の初め頃だった。Googleトレンドでグローバルインフレという用語の検索数をみると、2021年から2022年にかけ、世界的に急速に増加した。しかし、2023年に入ってからはやや鎮静化してきている。

実際に足元の物価情勢をみると、米国や欧州ではインフレ圧力に苦しむ一方、中国ではデフレリスクが警戒されている状況であり、グローバルインフレというより、各国でインフレの様相が異なってきているのが実情だ。

 

供給制約の解消とともに財価格上昇は一服

振り返ると、2021年にグローバルインフレが生じたきっかけは、コロナ禍で各国の財(モノ)の生産活動に制約がかかったこと、そして、同じくコロナ禍でサービス活動が制約されるなかで、財の需要が高まったことだった(巣ごもり需要とも呼ばれた)。また、サービスと比べて財は、グローバルにサプライチェーンが構築されており、いったん価格が上昇すると、各国に広がりやすい点も特徴であった。さらに、ロシア・ウクライナ紛争で資源制約が意識され、資源価格が上昇したことも、世界全体のインフレに拍車をかけることになった。

しかし、その後は各国がコロナ禍から通常の経済活動に戻っていくなか、生産面・物流面などの供給制約が徐々に解消されていった。また、人々がコロナ禍の行動様式を修正する中で、財需要の伸びも徐々に収まったため、需給双方でひっ迫感が緩和し、財価格は落ち着きを取り戻しつつある。また、資源価格についても、特に影響が懸念された欧州で対策が打たれ、かつ暖冬で資源需要が思ったほど増えなかったという幸運もあって、2022年後半から価格は徐々にピークアウトしていった。足元では、再び資源価格に上昇の兆しがあり、警戒が必要であるが、2022年半ばのピーク時よりは低い水準にある。

 

サービス価格の動きは各国で違い

グローバルな財価格の伸びが一服に向かうなか、サービス価格が各国の物価の伸びを決めるようになっている。サービス価格は、財と比べ各国の需給で決まりやすい面があり、それが地域差を生んでいる。

例えば、米国では、コロナ禍から経済活動が正常化に向かう中でサービス需要が回復、労働供給もひっ迫し、賃金上昇とともにサービス価格の上昇が進んでいる。一方、中国では、不動産市場の調整が深刻化するなか、先行き不安から消費活動の回復が力強さを欠き、企業も新規雇用に慎重になっている。こうした需要の弱さが物価の低迷を招いている。

 

日本におけるインフレ定着の可能性

翻って、日本はどうだろうか。日本は1990年代前半のバブル崩壊以降、物価は低迷してきた。日本企業はコストが上昇しても価格転嫁せず、生産性改善で吸収する、或いは事業展開に慎重になる、といった行動を選択するケースが多く、デフレマインドが強かった。

しかし、足元の日本の外部環境を考えると、日本のサービス活動は回復基調にあり、また元々構造的に人手不足であることから、需給双方の点で、過去になくサービス価格を上げやすい環境であることは間違いない。実際に、価格転嫁の動きが幅広い業種で確認されるなど、変化の兆しが明らかに出てきている。

もっとも、足元の価格転嫁の動きが、今後も定着するかを判断するにはもう少し様子をみる必要があるだろう。ポイントは、企業が賃金を本格的に引き上げ、更にそのコストを価格転嫁するかどうかにあるとみている。その試金石となるのは2024年春の春闘(労働組合が毎年春に行う賃上げ要求)だろう。

2023年春の春闘でも、例年にない水準での賃上げが実現することになったが、その理由は財価格上昇への対応という、ある意味で受け身の姿勢での賃上げであった。しかし、財価格上昇の一服が期待される2024年春の春闘で、企業が人材確保を起点とした積極的な賃上げを行うことが確認されれば、あきらかな企業行動の変化といえるだろう。長らく続いた物価低迷のトレンドが変わり、インフレが定着するのか注目される。

 

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