建設経済の動向

建設経済の動向
2023年11月号 No.553

眼前の巨大市場を前に新たな競争が始まる

燃料価格の高騰を受け、再生可能エネルギーに注目が集まっている。なかでも立地面の制約が比較的少ない洋上風力発電への期待は大きい。国も洋上風力発電の大幅拡大にかじを切っている。こうした状況を見越した大手ゼネコンなどによる洋上風力発電市場への参入が活発になり、技術・人材の両面での競争が激化しつつある。

洋上風力発電の市場に注目する大手ゼネコンが増えている。象徴的な動きが建設会社によるSEP船(自己昇降式作業台船)の建造だ。SEP船は洋上風力発電の要となる風車の据え付け工事などに欠かせないツールで、船から脚を出して海底に着床させ、波浪の影響を受けないよう船体を海上に持ち上げることができる。ただ、特殊な船なので建造費は安くない。

例えば清水建設は、揚重能力が2500トンに達するクレーンを備えたSEP船の建造に約500億円を投じた。2022年10月に完成した船は自航可能だ。同社のSEP船は完成後、順調に稼働を続ける。24年2月からは、台湾沖の洋上風力発電所のプロジェクトで活躍する予定だ。同社はこの船を武器に、洋上風力発電の設計・調達・施工の分野で高いシェアを獲得する方針を掲げている。

五洋建設と鹿島、寄神建設は、共同でSEP船を建造した。1600トン吊りのクレーンを搭載した船で、23年9月に完成を発表したところだ。同年11月から北九州響灘洋上ウインドファーム建設工事で、容量が9600kWの風車25基の基礎工事の一部と風車据え付け工事で活躍する予定となっている。

このほか、大林組と東亜建設工業が共同で建造してきたSEP船が、23年4月に完成した。こちらは1250トン吊りのクレーンを備える。

 

背景にある20兆円市場
人材争奪戦も巻き起こる

海洋土木を中心に手掛けるいわゆるマリコン以外のゼネコンがSEP船の建造に踏み切る背景には、国の方針がある。21年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、前年12月にまとめた「洋上風力産業ビジョン」に基づき、30年までに1000万kW、40年までに浮体式も含めて3000万~4500万kWの案件形成を目標に掲げている。

22年12月から段階的に商業運転を始めた能代港洋上風力発電所と秋田港洋上風力発電との合計容量が約14万kW。単純計算でこの規模の発電所を200件以上整備しても40年までの計画に及ばない。前述の秋田における洋上風力発電の総事業費は約1000億円なので、単純計算でも20兆円以上の巨大市場を期待できる。

洋上風力への市場参入を図るのは、大手ゼネコンだけではない。建設コンサルタント会社も環境影響評価や地元における合意形成といった分野で事業を拡大する。建設場所の選定や施工条件の決定に必要な海底地盤の調査も有力な業務だ。他にも、漁業への影響を確認する調査業務などもある。多様なニーズを背景にして、応用地質のようにグループ全体の売上高の約6分の1を洋上風力関連業務が占める企業も出てきた。

人材の争奪戦も起こっている。洋上風力の建設事業で活躍できそうな技術者を必要としているのは、ゼネコンだけでなく、再生可能エネルギー事業を手掛けるエネルギー会社も同じだからだ。大手ゼネコンなどから、大手エネルギー会社に転職するような事例も出てきている。

洋上風力発電をめぐる技術開発や人材獲得競争は、今後も激化していく可能性が高い。

 

【冊子PDFはこちら

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら