建設経済の動向

建設経済の動向
2023年9月号 No.551

国の事業で原則適用に入ったBIM/CIM

建設生産を革新するために欠かせない設計や施工のデータ。その基盤となるのが、BIM/CIMで作成されたものだ。国土交通省が2023年4月に直轄事業でBIM/CIM原則適用に踏み切ったインパクトは大きい。導入当初に浮き彫りとなった課題とともに、今後の建設生産におけるBIM/CIMの位置付けを探った。

国土交通省は2023年4月、直轄の業務と工事に対するBIM/CIMの原則適用を始めた。土木の現場で、いよいよBIM/CIM活用が本格的に進む時代に突入したのだ。今後、設計から施工、維持管理にわたって、一気通貫で生産性を高める基盤データの整備・活用が加速する見込みだ。

とはいえ、BIM/CIMの扱いに慣れていない施工者に、いきなり3次元モデルを作り上げるような作業を求めるのは無理がある。そこで施工者にはまず、BIM/CIMを活用するよう義務付けた。施工計画の検討補助や現場作業員への説明でBIM/CIMで作成した3次元モデルを活用するような取り組みが求められている。

原則適用は始まったばかりなので、現時点では課題も数多く挙がっている。異なるソフトで作成した3次元モデルなどのやり取りはその代表例だ。受け渡し時のデータ形式は規定されているものの、連携がうまくいかない場合もある。国交省では、こうした課題に応えるための窓口を設ける予定だ。

設計のプロセスと施工のプロセスでのデータ引き継ぎも課題の1つだ。施工段階では設計段階ほど精緻な情報が要らない場合が少なくない。このような連携の課題を解消するために、建設コンサルタンツ協会と日本橋梁建設協会が連携し、設計データから部材生産などに結び付けられるようなシステムの開発を目指している。

 

設計図書の照査を自動化
施工データを維持管理に生かす

現段階ではBIM/CIMを活用して業務効率化を図るという意識が十分に浸透しておらず、「納品のためだけに3次元モデルを作っている」「必要以上に詳細度が高い3次元モデルを作成している」といった意見も出ているのが実情だ。

しかし、BIM/CIMの導入自体が、後戻りすることはない。建設生産プロセスの合理化を進めるにあたって、設計から維持管理まで一貫して使えるデータは不可欠だからだ。一歩先を見据えたプレーヤーは、上手にBIM/CIMを使いこなすための取り組みを既に進めている。

設計や照査の自動化はその代表例だ。例えば、八千代エンジニヤリングと東京大学大学院は、3次元モデルを活用して照査の一部を自動化するソフトウェアの開発に取り組んでいる。既にプロトタイプを提示した。

オリエンタルコンサルタンツは、設計者が作った土工部の3次元モデルをICT施工に利用しやすいデータに変換するシステムを開発した。さらに、同社が開発したシステムでは、土工事のBIM/CIMデータに土の特性や締め固め回数などを記録できるようにしている。構造物に異状が発生した際に、こうしたデータを活用すれば、補修や復旧などが容易になる。

今後の現場活用例が増えていくにつれ、こうした流れは加速していくはずだ。建設生産プロセスを一気通貫で合理化できるメリットがより浮き彫りになってくるに違いない。

 

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