建設経済の動向

建設経済の動向
2023年6月号 No.549

目立つ侵入犯罪に建物側での対策を

住宅への侵入強盗や空き巣による被害の認知件数が増加傾向にある。住宅や建物を狙った犯罪への対策が、一段と重要になっている。IT(情報技術)やカメラなどを駆使した新たな防犯技術の開発と実用化が進む半面、建物に対する防犯基準の見直しなどは進んでいない。今回は、住宅や建物における防犯対策の現状を紹介する。

「ルフィ」を名乗る指示役が闇バイトで募った実行役に強盗をさせる――。2022年から2023年にかけて日本各地で起こった広域強盗事件は、日本の治安に大きな不安をもたらした。警察庁が発表した住宅を対象とした侵入強盗の認知件数は、2022年に129件となった。これは前年比で2割増加した数字だ。さらに、2023年1~4月の統計を見ると、空き巣犯罪の認知件数も前年同期比で24.3%増加している。さらに2023年5月には、東京・銀座において、多くの通行人の面前で高級時計店に押し入る強盗事件が発生。住宅や建築物における防犯の重要性に注目が集まっている。

侵入犯罪を招きやすい建物には特徴がある。旭化成ホームズが設計・施工を担った戸建て住宅と店舗併設用住宅において侵入被害や侵入未遂被害との関連性が疑われる修理について、2006年から2020年までの記録を同社のくらしノベーション研究所が調査・検証した。

その結果、侵入犯に狙われやすい特徴の1つは敷地の接道と階数だと分かった。1面だけが接道する敷地での被害が約6割、1階からの侵入被害が9割以上に達すると判明したのだ。

これらの条件に該当する住宅についてさらに分析したところ、背面や側面奥の開口部は狙われやすいものの、10万棟当たりの年間侵入件数で示す侵入リスクは15年間で低下していた。同研究所では、敷地の奥につながる通路に見通しを確保しつつ仕切り戸を設ける対策などを進めてきた努力が奏功したとみている。

侵入手口として多かったガラス割りが15年間で減ってきたのも特徴だ。ガラスの間に中間膜を挟んで割れにくくした防犯合わせガラスの採用が増えたためだとみられる。窓にシャッターを設ける対策も被害を減らす。シャッターを閉じた窓からの侵入件数は、シャッターを開けた窓の場合の3%程度に収まっていたからだ。窓の位置を高くするのも有効な手法になる。地盤面から1.4mの高さにある腰窓などに比べ、同1.7m以上の高さにある高窓では、侵入リスクが半分以下になっていた。

 

新しい防犯技術が続々実用化
基準の整備は10年以上停滞

近年はIoT(モノのインターネット)を活用した防犯ツールの導入が増えている。例えば、積水ハウスは窓の開閉状況を遠隔監視できるスマートフォン用のアプリを開発し、普及に努めてきた。窓にマグネットセンサーなどを設置して、開閉状態を監視。不正に開けられると住人に通知する。旭化成ホームズでは、宅配事業者を装って侵入する強盗から住人を守るための空間の提供を始めている。

民間での防犯技術の開発が進む半面、国が作成した住宅や建築の防犯対策の基準類のアップデートは十分に進んでいない。例えば、2009年に適用が始まった国土交通省の「官庁施設の防犯に関する基準」や、2006年に住宅性能表示制度の評価項目として追加された「防犯に関すること」は更新されていない状況だ。学校施設の防犯について記した「学校施設整備指針」も、2003年に追記された防犯計画の内容は更新されていない。

長期的には減少してきたとはいえ、侵入犯罪はまだまだ多い。一方で、ITの進展などで新たな対策も生まれている。防犯対策の基準なども一段の進化が必要だ。

 

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