日本経済の動向

日本経済の動向
2022年4月 No.537

世界的なインフレの進展と金融市場の方向感

グローバルなインフレが進んでいる。特に米国の物価は1980年代以来の高い伸びとなっており、先行きへの警戒感が高まっている。日本も対岸の火事ではなく、輸入価格が急上昇している状況だ。ただし、インフレ圧力の背景には日米で違いもある。そこで今回は、日米のインフレ圧力の相違が金融政策の方向感、ひいては金融市場へ与える影響などについて解説する。

商品市況高騰がもたらした世界的なインフレ

昨年から今年にかけて、世界各国でインフレが進んでいる。背景の一つには、資源や素材などの商品価格の高騰があり、日本を含む各国で輸入価格が上昇する直接的な要因となった。

商品価格が高騰したのには、大きく2つの要因があると考えられる。1つは需要面だ。コロナ禍で在宅時間が長くなり、結果として消費者がサービスより財を購入する機会が増えた。財需要の増加を受け、それを製造するための資源や素材の需要も増加することになった。

もう一つは供給面だ。こちらもコロナ禍が大きく影響している。新型コロナウイルス感染拡大を受け、各地域の工場稼働に制約がかかる事象が発生した。現在はグローバルにサプライチェーンが繋がっているため、世界的に財供給ができなくなる事態が発生したのである。つまり、コロナを起点に需給がひっ迫し、その結果、商品価格が上昇したということだ。

では今後はどうなるだろうか。世界各地域でワクチンや治療薬の普及が進んでいくことで、徐々にコロナの影響は緩和していくとみられる。そうすれば、消費者の需要は、再び財からサービスに回帰し、供給面の制約も緩和・解消に向かうと考えられる。そのため、長い目でみれば、商品価格も落ち着きを取り戻していくと考えられる。

日米の労働需給のひっ迫に相違

商品市況の高騰が各国共通のインフレ要因である一方、国内の労働需給のひっ迫には国により違いがある。特に日米ではその違いが顕著になっている。

米国では深刻な労働者不足となっており、足元で賃金が上昇している。実は、賃金上昇は物価上昇を長引かせやすいとされている。というのも、企業からみると賃上げはコスト増で、その転嫁のために価格を引き上げる方向に働きやすい。一方、消費者も賃金が上がれば物価上昇を受け入れやすくなる。ではなぜ、米国で労働者不足が発生したのか。それには需給両方の要因がある。

米国で需要が強い背景の一つに、米国の家計の金融資産の増加があげられる。コロナ禍で政府が大規模な財政出動を行ったこと、また2021年までの株高進展もあり、2020年第一四半期から2021年第三四半期にかけての米国の家計の金融資産増加額は、2020年のGDPを超える水準まで拡大した。こうした潤沢な金融資産が、米国の消費需要ひいては労働需要の強さに繋がっているようだ。

また、米国の家計の金融資産の増加によって、早期引退する人々が増えており、このことが労働供給面の制約にもつながっている。こうした労働需給のひっ迫は、仮にコロナの影響が落ち着いたとしても、残存する可能性があり、米国ではインフレが長引く懸念が強まっている。

一方で、日本の労働需給のひっ迫は、米国ほど強くはなく、賃金もあまり上昇していない。日本の労働市場の流動性が低いという構造的な違いもあるが、上記の米国と同じ期間の日本の家計の金融資産増加額が、2020年のGDP対比で小さかったことも影響しているようだ。

日米の金融政策の違いが金融市場に影響

以上を踏まえると、米国では商品価格が仮に落ち着いたとしても、国内の労働需給のひっ迫が続くことで、インフレが長引く可能性がある。米国の金融当局もその点を警戒し、利上げなどインフレを抑える政策を積極的に押し進めていく方向にある。

一方で、日本では国内の労働需給のひっ迫が米国に比して限定的であり、商品市況が落ち着けば、インフレ圧力も徐々に弱まる可能性が高い。そのため日本では、利上げなどの金融政策の変更の議論は本格化していない。

こうした日米の金融政策の方向感の違いは、日米の金利差となって現れる。日米金利差の拡大は、為替相場にとって、円安ドル高圧力が高まる方向に働くのではないかとみられる。

ただし、金融市場を巡る経済環境の不確実性は高く、ボラティリティが高い状況がしばらく続きそうだ。コロナの変異種の発生、地政学的なリスク、中国経済の失速懸念など、グローバル経済に影響を及ぼしうるリスク事象は多い。リスク事象の顕在化の兆しを受けて、一喜一憂する相場展開になるのではないだろうか。

 

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