建設経済の動向

建設経済の動向
2021年7・8月 No.530

コンクリートが脱炭素の重要アイテムに

コンクリートによる構造物建設では、大量の二酸化炭素が排出されるというイメージを持つ人は少なくない。しかし、コンクリートの組成などをひも解けば、炭素吸収のキーテクノロジーに躍り出る可能性がある。脱炭素社会の実現に向け、コンクリートの世界で進む技術革新の現状を解説する。

2050年までに国内の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると菅義偉首相が宣言してから、産業界の脱炭素に向けた機運が高まってきた。建設業界では、主要材料であるコンクリートの生産に欠かせないセメントの製造時に、大量の二酸化炭素が排出されている。この課題を解消しようと、コンクリートを使用する際の脱炭素に向けた研究・開発が近年進み、二酸化炭素の吸収を売りにした技術が誕生してきている。

コンクリートの脱炭素化に向けたアプローチは、製造段階に応じていくつかある。例えば、コンクリートの材料を選定する段階で工夫する方法が挙げられる。その1つが、東京大学や北海道大学、清水建設、太平洋セメントなどが共同開発している「カルシウムカーボネートコンクリート(CCC)」だ。

このコンクリートで用いるのが、コンクリート廃棄物と大気中の二酸化炭素、水だ。廃コンクリートで製造した骨材同士を、炭酸カルシウムを用いて結合させる仕組みだ。新しいセメント材や水和反応を使わずにつくるコンクリートを目指している。

ポルトランドセメントを製造するプロセスと逆の作用を用いる。まずは廃コンクリートに二酸化炭素を吸収させて炭酸化(いわゆる中性化)を進める。セメントの原料となる炭酸カルシウムを生み出しているのだ。そして、これを用いた溶液をつくり、廃コンクリートからつくった骨材に流し、炭酸カルシウムの結晶を析出させて結合させる。これまでに、圧縮強度8N/㎟程度の材料作成に成功している。2030年には低層建築物に適用できるよう開発を進める。

混和材で工夫する事例も 養生時に二酸化炭素を吸収

混和材を工夫する取り組みもある。大成建設が開発した「T-eConcrete/Carbon-Recycle」は、カルシウムに二酸化炭素を反応させて生成した炭酸カルシウムの粉末を混和材に用いて脱炭素に取り組む例だ。

前述の通り、コンクリートは二酸化炭素を吸収する性質を持つ。中性化だ。過去には、完成したコンクリートが二酸化炭素を吸収する効果を試算した研究などがあるほどだ。ただ、鉄筋コンクリートの場合、中性化は内部の鉄筋を腐食させるリスクを伴う。炭酸カルシウムを混和材に使うことで、アルカリ性を維持しやすくなる。混和材を加えるだけで実現できる方法なので、現場で取り入れやすい技術になっている点も長所だ。

養生の段階でコンクリートに二酸化炭素を吸収させようという発想で開発されたのが、「CO2-SUICOM」だ。鹿島
と中国電力、デンカが共同開発した。こちらも特殊な混和材を使う。セメントの一部を特殊な混和材に置き換え、型枠を外した後、高濃度の二酸化炭素を入れた養生槽に置いておくと二酸化炭素を大量に吸収する技術だ。コンクリートの空隙を埋め、組織を緻密にする効果を期待できるので、圧縮強度が上がる。既に舗装ブロックや埋設型枠など2次製品としての実績を持つ。

「T-eConcrete/Carbon-Recycle」の構成イメージ。セメントの代わりに高炉スラグなどを用いているので、セメント製造時に出る二酸化炭素排出量を減らせる(資料:大成建設)

島根県の国道の歩車道境界ブロックに「CO2-SUICOM」を適用した例(写真:鹿島) 

 

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