魅力ある建設業界へ

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2021年7・8月 No.530

賃金制度

社会保険労務士法人アスミル
特定社会保険労務士 櫻井 好美

profile:
民間企業に7年勤務後、2002年櫻井社会保険労務士事務所(社会保険労務士法人 アスミル)を設立。
【主なコンサルティング・セミナー内容】
就業規則・労働環境整備、人事評価制度コンサルティング、賃金制度コンサルティング、退職金コンサルティング、働き方改革セミナー、管理職向け労務管理セミナー、建設業むけ社会保険セミナー、介護セミナー、WLBセミナー、女性の働き方セミナー、学生むけ働く前に知っておいてほしいこと 等

賃金制度

賃金(給与)の決め方は会社によって様々です。前回、人事管理システムの変遷でお話しましたが、日本は「終身雇用」が前提であったため、同じ会社で長く働き、長く働くからこそ能力が上がっていくという考えから「年功序列賃金」が主流となっていました。しかしながら、最近では1つの会社で働き続けるという考え方よりも、自分のキャリアのために働くという働き方に変わってきています。そのような中で、賃金制度というのは、会社がどのような人を評価するのかを表す1つの手段になっています。

日給制と月給制どっちがいいの?

建設業の場合、現場作業員の方には日給制を導入しているケースが多いです。実際に働いている方も「働いた分がもらえるからいい」という方が多いようです。しかし、労働日数が少ない月であれば、月給制の方が生活は安定します。経営者としてみれば、稼働をしていないということは元請から金額が入ってこないため、資金的に厳しい状況にはなりますが、最近の若年者は、安定した給与を望む傾向も強いため、今後の採用を考えた場合に月給制も視野にいれて検討していくのも1つです。また日給だからという理由で残業代を支払っていないというケースをよくみます。日給であっても月給であっても法定労働時間(1日8時間1週40時間)を超えた場合には残業代の支払いは必要ですし、働き方改革において、有給休暇の取得が事業主に義務づけられた以上は、月給制の方が会社としての管理はしやすくなります。日給でも月給でもこれは給与の決定方法に過ぎず、どちらを選択するかは会社次第です。

賃金の構成って?

賃金は基本給の他に通勤手当等の手当を支払っていることがあります。手当に法律的な決まりはなく、会社独自のルールです。ただ、最近の傾向としては頑張っている人に高く給与を支払っていきたいという傾向から、家族手当や住宅手当等の能力と関係のない属人的な手当を見直ししている会社が増えています。

どんな手当をつけたらいいですか?

手当の支払いは義務ではありませんが、従業員の方のモチベーションアップのためにも目的をもった手当の支払いは効果的です。いくつか手当をご紹介します。

■役職手当
部下育成をする立場の人や、現場をまとめる人には、その責任を担ってもらうという意味で、役職手当を支給しています。役割の明確化のためにも必要な手当です。

■資格手当
建設業の場合、資格が必要な職種もあるため、資格手当の導入は有効です。また従業員の方も目標が明確になります。この場合、必要な資格を洗い出してもらい、それぞれの金額を決定していきます。その際に資格手当の上限金額の設定や、1級2級と同じ資格でも種類がある場合は上位資格を優先するといった取り決めが必要です。

■車両手当
個々に車を貸与している場合に、車両管理手当をつけているケースをよくみます。例えば、車両管理チェックシート(車内清掃、定期点検等をしているか?)を作成し、このシートのチェック項目をクリアした場合は支給するといった手当で、日常から車を丁寧に取り扱うことに気を付けてもらうための手当です。

 

  主な業務: 空調設備  
  従業員数: 25名

問題点

給与体系のコントロールがうまくいかず、社員からは不満の声も…

ほとんどが中途入社の社員です。入社時の給与は、前職の給与をヒアリングしながら決めていました。そのため、後から入社した社員の給与が、他の社員ほど仕事ができないのに高くなったり、能力は高いのに、若いからということで給与が低かったりとバラつきが目立ってきました。社員からは不満の声が出始めています。どうしたらいいでしょうか?

改善後

各種手当の見直しで整合性ある給与制度へ!

①賃金の考え方と各種手当の検討

今までのあいまいな基準をやめ「頑張っている人」に対しての賃金制度へ変更していきたいという意向から、まずは手当の見直しをしました。今まであった支給基準の明確でなかった家族手当、住宅手当を廃止し、新たに資格手当を導入し、入社したばかりでも頑張った人には給与が増えるようにしました。

また、新しい手当として「貢献手当」を導入しました。「貢献手当」とは、一人ひとりになんらかの役割を任命し、その役割に対してはその人がリーダーとなって取り組みをします。その取り組みが適正に実施されていれば「貢献手当」が支給されるというものです。

例えば、Aさんを社用車管理者とします。社用車管理者は右記のような表のもとに、他の従業員の社有車に関して管理をします。これは新入社員であっても何らかの役割のリーダーとなるため、先輩社員に対しても指導する権限をもつというものです。

貢献手当は他に社内美化管理者、倉庫管理者、駐車場管理者等をつくっています。これはどんなに小さな役割でも、自分がリーダーとなることで会社へ対しての意識が変わっていくことを狙っています。この手当のおかげで社内コミュニケーションも潤滑になり、細かなことにも意識が向くようになってきました。

②基本給は能力給へ

前回のキャリアアッププランでも解説をしましたが、等級基準書を作成し、等級および職種ごとの役割、能力の要件を決め、それに対して基本給を決定していくことにしました。ここにはランクごとの給与水準を記載したので、今まで「私は頑張っているのに給与が上がらない」といった社員に対しては、何が足りていないのか説明することができ、今まで問題であった会社の基準より払い過ぎていた社員には本来の給与額と現在払っている給与額の差額を通知し、現在払っている給与にもっていくためには、何を頑張らなくてはいけないかを説明することができました。

● 今後の課題

今回作成した等級基準書は、まずは大きな枠組みで作成をしました。今後はどのような職務(仕事)があるのかを洗い出しをし、もうすこし精度の高い等級基準書を作成していく必要があります。あわせて、定期的な評価面談を実施していくことが今後の課題です。

1.賃金制度の法律的な縛りは?

実は、賃金制度に関する法律的な縛りはありません。唯一あるのは、都道府県ごとに定められている最低賃金のみです。固定的賃金を時間単価にした場合に最低賃金を下まわるような設定はできません。

2.基本給の決定方法とは?

1. 日給月給制 2. 月給日給制 3. 完全月給制

1日単位で給与額を決定し、
1ケ月にまとめて支払うこと

(一般的にいう日給制)

1ケ月単位で給与額を決定し、
不就労時は控除して支払うこと

(一般的にいう月給制)

1ケ月単位で給与額を決定し、
欠勤等も控除しない

(管理職の方に使います)

3.手当に独自性を!!

手当というのは、目的が明確であるため会社の特色やモチベーションアップに効果的です。例えば、工務店であれば家に興味をもってもらいたいという意味を込めて、住宅購入者には住宅の補助を手当として支給するといった方法もあります。自社にあった手当も検討していきましょう。

 

 

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