日本経済の動向

日本経済の動向
2020年5月号 No.518

「特定技能」資格導入から一年 新資格による外国人材受け入れ動向

2019年4月に新たな外国人在留資格である「特定技能」が導入されてから、間もなく一年が経過する。
外国人材の受け入れ拡大に向けて創設された新資格だが、受け入れ実績は19年12月末時点で1,621人にとどまっている。20年3月末までの政府の受け入れ見込みは少なくとも3万人強とされており、大幅未達は必至である。今回は、特定技能資格による外国人材の受け入れについて考える。

「特定技能」による受け入れは進まず

特定技能制度は、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材の受け入れを進めるために、一年前に創設されたものである。人手不足が懸念される介護、外食、建設などの分野において、5年間で最大で合計約34.5万人の受け入れが想定されている(図表)が、初年度の滑り出しはかなり低調となった。

特定技能には、図表の14業種で受け入れ可で、在留期間が最長5年の「特定技能1号」と、建設、造船・舶用工業のみで受け入れ可で、期間に制限がない「特定技能2号」がある。特定技能1号の技能や日本語能力は、特定技能評価試験で確認されることになっているが、一定の「技能実習」資格を修了していれば試験が免除される。従って、特定技能1号資格を取得するためには、試験に合格するか、技能実習からの資格変更を行う必要がある。なお、技能実習は日本で培われた技能や技術を発展途上国の経済発展に役立て、国際協力を推進するための制度であり、本来は、労働力として外国人材を雇用するための資格ではない。

受け入れが進まない背景

特定技能資格による外国人材の受け入れが進んでいないことには二つの理由がある。

第一は、特定技能評価試験の合格者が少ないことである。合格者は2019年12月末時点で115人に過ぎない。合格者が少ないのは受験者が少なく、かつ合格率も低いためだ。

特定技能制度では、二国間の協力覚書が締結された国の外国人材のみを受け入れることができるとされている。この協力覚書の締結が遅れていることが、受験者が少ない背景にある。制度創設の19年4月より前に締結されたのはフィリピン、カンボジア、ネパール、ミャンマーの4か国に留まっている。その後、締結国は順次拡大しているが、中国との協定締結は遅れている。また、試験の合格率が総じて低水準に留まっている一因として、受験者の日本語能力の低さが指摘されており、外国人材が日本語能力を培う体制の整備が求められている。

第二の理由として、期待されていた技能実習から特定技能への移行が進んでいないことが挙げられる。その背景には、受け入れ企業に義務付けられているさまざまな条件の厳しさがある。日本人並みの労働条件確保や社会保険への加入などが重荷になっているようだ。1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないことなども求められている。

中長期的視点から受け入れ態勢の整備を

短期的には外国人材受け入れ拡大への逆風が強まることも考えられる。すなわち、日本経済の変調を受けて、企業の人手不足感は一部では緩和する兆しがある。また、新型コロナウイルスの感染拡大で、外国人材が日本での労働をちゅうちょしたり、また、日本企業が外国人材の採用をためらうこともあり得よう。

しかし、少子高齢化が進む中で、日本は中長期的には外国人材への依存度を高めていかざるを得ない。外国人材を単にコストの安い、あるいは一時的な労働力としてではなく、社会と共存する安定した労働力として受け入れていくことは、日本経済の、また日本企業の成長戦略として今後不可欠となってくる。特定技能資格による外国人材をいかに受け入れ、定着させるか。「外国人を選ぶ」のではなく、いかにして「外国人から選ばれる」のか。官民の知恵が問われていると言えよう。

 

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