建設経済の動向

建設経済の動向
2018年10月号 No.502

大手と中小で業績に大きな格差

リニア中央新幹線や五輪関連施設など、大規模インフラ投資に沸く建設業界。利益率や給与の伸びが目立つが、どうやらその恩恵を享受しているのは、大手や準大手など一部の建設会社にすぎないようだ。日経コンストラクションが実施した建設会社の決算状況の調査から、大手と中小、中央と地方で、建設会社の業績に大きな格差があることが改めて明らかになった。

「大手建設会社が過去最高益を記録」、「建設業の給与が他産業を抑えてトップに」、「建設業の営業利益率が製造業を上回る」――。ここ1、2年、建設業の経営を巡って景気のいい声ばかりが聞こえてくる。ところが、地方の建設会社の経営者からは、「でも、うちの県は景気が良くない」といった話をしばしば耳にする。
そこで日経コンストラクションでは、主要な建設会社を対象に、2018年3月期の決算状況を調査。大手と中小、中央と地方で、建設会社の業績に差があるのか分析してみた。

規模が大きいほど高い利益率
地方・中小では仕事も人材も不足感

2018年3月期の決算では、全体的にみて完成工事総利益率の伸びが著しかった。特に大手(総売上高1兆円以上)と準大手(同2000億~1兆円)の建設会社を中心に利益率が拡大していた。なかでも土木の採算が大きく改善。土木の完成工事総利益率は、鹿島、大成建設、大林組、清水建設の大手4社の平均が18.8%と、前期より2.4ポイント上昇した。
営業利益率も、ここ数年で上昇が続いている。財務省の法人企業統計によると、建設業の営業利益率は、長らく1%台と低迷していたが、東日本大震災が発生した2011年度以降は右肩上がりで上昇。2016年度には4.6%に達した。これは、全産業平均(4.0%)だけでなく、製造業(4.4%)よりも高い。製造業を上回ったのは2000年代に入って初めてのことだ。
大手4社の営業利益率の平均は10.3%と、前期より1ポイント上昇した。同様に、準大手10社は7.1%、中堅(総売上高500億~2000億円)20社は5.8%と、いずれも0.3ポイント伸びた。一方、地方大手(同100億~500億円)25社は0.5ポイント低下し、5.6%にとどまった。
営業利益率が前期より上昇した建設会社の割合を規模別に比較すると、大手では全社で利益率が上昇している半面、地方大手では6割の会社で低下していることが分かった(図1)。原因は、売上高が伸び悩んでいること。地方大手は4割近くの会社で総売上高が減少し、土木売上高も半数の会社で減っている。受注の落ち込みも大きく、土木では7割の会社で前期より減少した(図2)

図1 利益率が上昇した会社の割合

図2 売上高や受注高が増加した会社の割合

背景には、仕事と人材の不足感がある。地方の建設会社では「地元の公共事業予算は良くて横ばい」との声が多い。リニア中央新幹線や東京五輪の関連施設に象徴される大規模プロジェクトも少ない。さらに、地方の建設会社では社員の採用が思うように進まず、一定の手持ち工事を抱えていると新規の受注を控えざるを得ない状況だ。
大手や準大手の建設会社は人材確保を目的に、給与のベースアップや時間外労働の削減など、社員の待遇改善を進めている。「働き方改革」の面でも、大手と地方・中小の建設会社の差は歴然としており、それが業績にも影を落としている格好だ。

 

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