サプライチェーン重視時代の建設工事契約のポイント

サプライチェーン重視時代の建設工事契約のポイント
2026年10月号 No 582

第6回 CI-NETの全体像と当事者署名型の優位性

弁護士法人匠総合法律事務所
     弁護士 秋野 卓生

東京・大阪・名古屋・仙台・福岡に拠点を設ける弁護士法人匠総合法律事務所 代表社員弁護士。
法務省司法試験考査委員(民法)等を務める。

はじめに
「CI-NET」 その名前、どこかでみていませんか

第4回では電子契約の沿革と種類を、第5回では法務上の注意点と当事者署名型の証拠力を解説し、当事者署名型に対応するシステムの代表例としてCI-NETを挙げました。

この名前、どこかで目にした記憶はないでしょうか。国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」に、「(4)電子契約によることも可能 書面契約に代えて、CI-NET等による電子契約も認められる。」という一文があります。

数ある電子契約サービスの中で、名前を挙げられているのはCI-NETだけです。

ただ、名前が知られている割に、仕組みそのものは案外知られていないように感じます。今回はこのCI-NETを取り上げ、その全体像と当事者署名型としての優位性、実務上のメリットを解説します。

「契約書をPDFで送る」仕組みではない

CI-NET(Construction Industry NETwork)は、平成3年12月の建設大臣告示「建設業における電子計算機の連携利用に関する指針」を受けて整備された、建設業のEDI※標準です。30年以上の歴史があります。実装規約(CI-NET LiteS)が公開されており、最大の特徴は、紙の契約書を単にPDF化して往復させるのではなく、業務プロセスそのものをデータで連携させる点です。見積依頼、見積回答、確定注文、注文請け、出来高報告、請求という帳票の流れを、データ項目に置き換えて交換します。

注文データと注文請けデータのやり取りによって建設工事の請負契約が締結され、見積データを出来高査定や請求へそのまま利用することができるので、転記と再入力が不要となります。

標準規格ですので、元請負人と下請負人が異なるベンダーのサービスを使っていても取引ができます。取引先ごとに別々のIDとシステムを抱え込む多端末化を避けられることは、複数の元請負人との取引関係を有する専門工事業者にとって大きな利点です。利用には企業識別コードの登録と電子証明書の取得が必要で、資本金1億円以下であれば初年度は合わせて3万円弱、有効期間は3年です。

※EDI:電子データを直接交換して取引を行う仕組み

いつ合意したか、記録に残る

第4回で、追加変更工事の口頭発注が絶えない背景として、現場で依頼を受けてから見積・発注書・請書を回す手間の煩雑さを挙げました。

筆者が相談を受ける場面でも、注文書が着工後に届く、請書が届かないまま工事が終わったという状況があります。

請負契約で必要な15項目を記載した書面の着手前の相互交付(建設業法(以下法名省略)第19条第1項)も、その都度の変更契約(同条第2項)も、押印と郵送を挟む運用ではどうしても時間が掛かります。

例えば、建設工事の請負契約で紛争になったとき、その解決に携わる弁護士が最初に確認するのは、いつ、どのような内容で合意が成立したのかです。

ここが押さえられていない事件は、代金の増額請求でも追加工事の有無の争いでも、途端に見通しが悪くなります。

CI-NETでは、注文データを送り、相手方が注文請けデータを返すという電子処理で契約が締結され、承諾の事実と時期が記録として残り、郵送のタイムロスもありません。紛争を扱う立場から見て、この記録が残るという一点だけでも、CI-NETの導入を勧める理由になります。

契約後も、出来高報告、出来高承認、請求まで同じ枠組みでデータ化されるため、下請代金の支払期日(法第24条の3)や特定建設業者の50日ルール(法第24条の6)を守れているかが追跡できる形で残ります。元請負人にとっては支払期日を守れていることの裏づけになり、下請負人にとっては支払を求めるときの根拠になります。

本人確認の厳格性と当事者署名型

電子契約で最も警戒すべきは、別人による「なりすまし契約」です。

第4回で挙げた電子契約の方式のうち、CI-NETが採用しているのは当事者署名型であり、事前の本人確認の手続は相当に厳格です。

認証局は電子署名法に基づく特定認証業務を行う認証事業者である日本電子認証株式会社、審査を行う登録局は一般財団法人建設業振興基金が担います。

申込書には企業印と担当印の押印を求め、履歴事項全部証明書と照合し、新規申込時には電話で企業と担当者の存在を確認し、電子証明書は本人限定受取郵便で送られます。CI-NET利用企業の識別には、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が管理する標準企業コードが用いられます。

前回述べたとおり、事業者署名型(立会人型)でも要件を満たせば電子署名法第3条の推定効(本人の意思によって真正に成立した)は及び得ますが、当事者署名型は本人自身の電子署名そのものですから、要件の充足を直接主張できます。

上記の審査を経た電子証明書による署名であれば、成立の真正を争われたときの立証負担は格段に軽くなります。

電子契約の開始に当たっては、あらかじめ相手方に利用する電子契約の種類および内容を示したうえで承諾を得る必要があり、CI-NETでは「データ交換協定書」「運用仕様書」の参考例が用意されており、これを取り交わすことで円滑に利用を始めることができます。推定効を現実に受けられるかは、電子証明書と署名鍵を社内で誰がどう管理していたかにも左右されますので、担当者任せにせず社内の手順を定めておくことが推奨されます。

実務メリットの広がり
施工体制台帳から金融面まで

電子契約では印紙税が不要になることは第4回で触れましたが、契約金額の大きい建設工事では、この一点だけでCI-NETの導入費用を回収できることも珍しくありません。

施工体制台帳についても、必要に応じ工事現場の端末で契約データを画面上に表示できるのであれば、印刷して添付する必要はありません(建設業法施行規則第14条の2第4項、「電子契約を行った場合の施工体制台帳の取扱いに関するガイドライン」令和5年5月12日国不建第43号)。

本社やASPのサーバにデータが置いてある場合でも、現場からアクセスして表示できれば問題ありません。

改ざんのない受発注・出来高データは信用度が高く、東日本大震災では、紙の書類を失った事業所がCI-NETの保管データによって業務を継続できた例も報告されています。

標準労務費制度への対応

改正建設業法による標準労務費制度への対応も、CI-NETを活用することでよりスムーズに進められると考えられます。

一般財団法人建設業振興基金が、関係企業にCI-NETにおける対応の検討状況の聞き取りを行ったところ、社内の周知活動や協力会社への説明会等を通じて、「歩掛」や「労務単価」を用いた見積をどう作成するか、現行の商習慣をどう変えるか、といった声が寄せられているとのことです。

また、実際に見積書への記載方法についても、国土交通省のポータルサイトに「様式例」として詳細版と簡易版の2つが示されているところ、どちらを選択するかによっては社内システムの改修が必要となる場合もあるとして、各社で検討が行われている状況にあるとのことです。

データでのやり取りは、どの項目にどの数値を入れるかが決まらなければ動きません。裏を返せば、CI-NETでの運用を前提に検討することで、「適正な労務費を確保すべきだ」という一般論にとどまらず、見積のどの欄をどう埋めるか、そのために社内システムをどう直すかという実務レベルまで、検討を具体化させることができます。

おわりに

CI-NETは電子契約の一手段であると同時に、建設業法が求める契約手続を業界全体で標準化する試みです。

紙と押印を前提とした運用からの転換は、人手不足の中、データに慣れ親しんだ若い世代を迎え入れるうえでも大きな意味を持ちます。

CI-NET導入にあたっては、関連する全業務を一斉に切り替える必要はなく、定型的な注文業務での利用から始める企業が多いようです。まずは主要な取引先がCI-NETを利用しているかを確認してみてください。

 

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