サプライチェーン重視時代の建設工事契約のポイント

サプライチェーン重視時代の建設工事契約のポイント
2026年7・8月号 No 580

第4回 電子契約の必要性と沿革

弁護士法人匠総合法律事務所
     弁護士 秋野 卓生

東京・大阪・名古屋・仙台・福岡に拠点を設ける弁護士法人匠総合法律事務所 代表社員弁護士。
法務省司法試験考査委員(民法)等を務める。

建設業法第19条で契約書締結
義務が規定されている趣旨

建設工事の請負契約については、従来から、注文者が強い立場に立つ片務性が指摘されています。このため、建設業法では、①契約当事者の各々の対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結し、②信義に従って誠実にこれを履行することを契約の基本原則として定めています(建設業法第18条)。

また、民法では、一般に請負契約は当事者の合意によって成立する諾成契約とされており、書面による契約を必要としていませんが、口頭の契約では内容が不明確、不正確となり、後日紛争の原因となるおそれがあります。このため、建設業法では、工事の内容その他契約の内容となるべき重要な事項(工事の内容、時期に関する事項、請負代金の額、支払等に関する事項、損害の取扱いに関する事項などの15項目)は具体的に書面で取り決め、これを相互に交付すべきことを定めています(同法第19条)。これらは、発注者と建設業者との契約のみならず、下請契約においても同様とされています。

電子契約の必要性

現状では、建設業界においては中小零細企業が大半を占めているためか、建設業法第19条の規定の存在にもかかわらず、未だに口頭発注が多くなされており、特に同法第19条第2項の追加変更工事の口頭発注は、非常に多いのではないかと思われます。

その背景としては、例えば工事現場で追加変更の依頼を受け、それから事務所に戻って見積りをし、発注書を発行し、請書を発行するという手間が煩雑であることなどが挙げられるでしょう。

現在、他業界において着実に普及が拡大している電子契約が、中小零細企業も含めた建設工事の請負契約の世界にも本格的に導入されれば、重要事項を記載した電磁的記録による契約が進み、追加変更工事の対応をはじめ、元請下請間、下請孫請間の取引をDXにより簡素化することができ、同法第19条の目的や狙い、意図が迅速に達成されると考えられます。このため今回は、電子契約の種類など、その概要について説明します。

電子契約の種類

電子契約とは、一言でいうと電子文書に電子署名を行うことで、インターネット上で契約を締結する仕組みのことであり、これまでの書面契約で必要であった押印や印紙税が不要となります。現在、以下に紹介する3つの方式が電子契約サービス事業者から提供されています。

1 当事者署名型

契約を締結する全ての当事者が、電子認証局の本人確認を経て当事者名義の電子証明書を取得した上で、当事者が自身の電子署名を電子契約書に付す方式です。

当事者署名型は、電子証明書をどこに保管しておくかという点で、下記の2つの分類があります。

  • ● ローカル署名
    電子証明書を、USBトークンやICカード(以下「物件」)など、電子的にローカル環境でコピーできない状態に置き、契約当事者が確実に所有し、ローカル環境で電子署名を行う方法。
  • ● リモート署名
    電子証明書と署名鍵を安全なサーバーに保管・管理することで、物件に縛られることなく、リモート環境でも電子署名を行うことができる方法。

2 事業者署名型(立会人型)

電子契約サービス事業者が、契約当事者の身元をメール認証や2要素認証等で確認し、契約当事者を特定できる情報を含んだ電子証明書を取得して、契約当事者本人ではなく電子契約サービス事業者が事業者の電子署名を電子契約書に付す方式です。

  • ● クラウド署名
    電子証明書、署名鍵を電子契約サービス事業者が準備し、これを提供するため、契約当事者は事業者に対して署名指図をして電子署名を行う方法。

3 ハイブリッド型

1 及び 2 の双方を利用した方式です。電子契約サービスを使用している一方当事者は本人の電子署名(当事者署名型)を利用し、他方当事者は電子契約サービス事業者に依頼し事業者署名型(立会人型)の署名を利用します。

当初の電子契約サービス

電子署名及び認証業務に関する法律(以下「電子署名法」)が2001年4月1日に施行された当時、想定していた電子契約のスタイルは、第三者である電子認証局が当事者本人の「固有性」(その者が対象となる電子文書の作成者であること)の確認を行い、それに基づいて発行した電子証明書を用いて、当事者本人が電子署名を行うものでした(すなわち、前述の当事者署名型)。

併せて施行された「建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する『技術的基準』に係るガイドライン」が認めている電子契約も、この当事者本人が電子署名を行うスタイルを前提に定められています。

しかし、電子認証局にわざわざ電子証明書の発行を依頼する煩わしさやコスト負担などの問題から、なかなか浸透しませんでした。

電子契約に関する
その後の制度改正

上記の問題を踏まえ、国全体の電子契約に関する措置についての見直しを受け、国交省は2020年10月1日に建設業法施行規則第13条の4第2項を改正・施行しました。具体的には、第3号として「当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていること」を加え、電子契約サービスの要件として本人確認措置を追加しました。この改正により、事業者署名型も建設業法に適合した電子契約サービスとなりました。

この事業者署名型の電子署名が電子署名法に適合した電子署名に当たるための要件については、2020年以降、政府から随時Q&Aが公表されています。電子契約サービス事業者が、2要素認証等によって契約当事者以外の他人が容易になりすますことができないという「固有性」の要件を備える場合には、電子署名法上の効力を認める電子契約となります。


次号では、電子契約・電子発注における法務上の注意点について解説していきます。

 

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