建設経済の動向

建設経済の動向
2023年2月号 No.545

現場で余ったコンクリートへの対策が加速する

現場で使われなかった生コンクリートを産業廃棄物として捨ててしまう問題への関心が高まっている。建設分野における二酸化炭素排出量の削減において、セメントの使用量の削減が重要な課題となっているからだ。残コンクリートや戻りコンクリートを減らすために進む最新の取り組みを解説する。

建設現場では、工事に用いる生コンクリート(以下、生コン)が余ってしまうケースが珍しくない。生コンが不足すると、作業に待ち時間が生じたり、コンクリート構造物にコールドジョイントが発生してしまったりする。生コンが足りなくなった場合のデメリットが大きいので、建設会社は生コン会社に多めの数量で発注する傾向が強い。

一方、脱炭素や低炭素の取り組みが求められるなかで、セメントの使用量を抑制しようという動きも広がっている。石灰石からセメントを製造する過程では、大量の二酸化炭素が排出される。セメント産業における二酸化炭素排出量は国内の4%程度を占めており、セメント使用量の削減は低炭素化の取り組みとして欠かせない。

工事で余った生コンクリートは、通常は生コン工場に戻される。そして、生コン工場側が戻されたコンクリートを産業廃棄物として処理している。こうした無駄を減らすために、建設現場で使わずに戻されたコンクリートに対して、生コン工場側が処理費用を求めるケースが増えてきた。例えば、東京地区生コンクリート協同組合では、現場で使われずに戻されたコンクリートに対して、1m3当たり5,000円を建設会社に支払ってもらう取り組みを2014年度に始めている。

東京地区生コンクリート協同組合に所属する企業が出荷する生コンクリートの総量に対する残コン・戻りコン発生量の割合(資料:東京地区生コンクリート協同組合への取材や資料を基に日経クロステックが作成)

しかし、この施策では戻ってくるコンクリートの量は減らなかったという。しかも、現場で少しだけ使い、残コンクリート扱いにして処理費用の支払いを免れようとするケースもあったというのだ。そこで同生コン協組では、さらなる対策として、戻りコンクリートの引き取り価格の引き上げを図った。今後は現場で残ったコンクリートを引き受ける際の有償化も検討している。

スマホを使い打設量を正確に把握
大阪・関西万博で無駄ゼロに挑む

生コンクリートの無駄を減らすための技術開発も進んでいる。例えば、生コン数量をより正確に、しかも簡単に計算できるようにして、発注時の無駄を減らす技術がある。LiDARなどを搭載したスマートフォンで現場を撮影しながら正確に打設数量をはじき出す技術は、その代表例だ。測量作業が1人で済むだけでなく、数量も自動計算できて正確になる。

これまでの一般的な現場では、施工中の構造物に対して2人でコンクリート打設が必要な箇所の寸法をメジャーなどで計測し、手配すべきコンクリート数量を算出していた。手間が大きい割に、精度にも難があった。

他にも、生コンの発注数量と打設済みの数量を比較して、必要数量を即座にはじき出すようなアプリなど、デジタルツールによって現場に必要な生コン数量を正確に把握する取り組みは、着実に進んでいる。

25年に開催される大阪・関西万博の施設整備では、残コンクリートや戻りコンクリートをゼロにするという目標が掲げられている。前述したような正確に打設数量を算出できる技術の導入を図ったうえで、複数の建設現場で協調し、ある現場で余ったコンクリートを別の現場で使うといった上手な分配を行う。それでも残ったコンクリートは集約して、歩車道境界のブロックなどの製造に用いる。

今後、現場で余ったコンクリートの扱いに、一段と注目が集まるに違いない。

 

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