魅力ある建設業界へ

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2022年3月 No.536

人材育成

社会保険労務士法人アスミル
特定社会保険労務士 櫻井 好美

profile:
民間企業に7年勤務後、2002年櫻井社会保険労務士事務所(社会保険労務士法人 アスミル)を設立。
【主なコンサルティング・セミナー内容】
就業規則・労働環境整備、人事評価制度コンサルティング、賃金制度コンサルティング、退職金コンサルティング、働き方改革セミナー、管理職向け労務管理セミナー、建設業むけ社会保険セミナー、介護セミナー、WLBセミナー、女性の働き方セミナー、学生むけ働く前に知っておいてほしいこと 等

 

定着率をあげるために

建設業の「担い手不足」を解消するためには、まずは労働環境の改善が必要であることを解説していきました。労働環境を整えることが働く上での最低限のベースとなるからです。特に現場作業員を抱えている会社では、まだまだ週休2日まで至らないというケースが多くあるかと思います。単に休日を増やして、売上が下がってしまっては何の意味もなく、売上を維持しながら休日を増やしていくため、長期にわたり、試行錯誤を繰り返しながら続けていくのが業務改善なのです。そして企業は業務改善を行いつつ、新規採用を行い、さらには入職した人が辞めない環境を作り続けなくてはいけないのです。採用が難しくなっている中、せっかく採用をした人が辞めないためには何が必要か考えていきましょう。

教育の必要性

今まで建設業の現場は「見て覚えろ」が業界の常識であったかと思います。しかし、今は「見て覚えろ」の時代ではありません。今の若い人達の子供の頃をイメージしてみてください。小さいころから複数の習い事や塾に通い、自分で何かを学びとっていくというよりは、すでに出来上がったところで教えてもらうことに慣れて育ってきているのです。その子達が社会人になり、急に「見て覚えろ」といっても、どうしていいかわからないのです。ただ、これは決して悪いことではありません。教えてもらうことには慣れているため、しっかりと教えていけば力を発揮するのです。「自分達のときは、1つ1つ教えてもらえなかった」ではなく、次世代育成のためにはしっかりとした教育体制が必要なのです。教えるということには時間がかかります。まして自分の仕事をしながら教えるのは本当に大変なことです。中小企業の経営者は「ゆっくり教えている時間なんてないよ」と思うかもしれませんが、この手間をかけなければいつまでたっても定着は難しく、採用の費用を無駄にし、教えては辞めていくという無駄な時間を費やすことになるのです。「大変」ではなく、自社にできる教育の仕組みを考えていきましょう。

仕事の洗いだし

まずは、属人化した仕事を見える化する必要があります。この人じゃないとわからないとか、人によってやり方が違うということでは、時間の効率化も図れませんし、いつまでも人任せな仕事になってしまいます。仕事の標準化を図るために、まずは今やっている仕事を課業レベルに洗い出しをし、その仕事を中分類、大分類と分類化します。その中で業務ごとの標準パターン(業務フロー)を作り、作業工程ごとのマニュアル化をしていくことが大切です。

マニュアル化のメリット・デメリット

メリット デメリット
 属人化を防ぐ
 教育時間の短縮
 仕事の品質の均一化
 自分で考えなくなってしまう
 マニュアル作りが目的になってしまう

マニュアル化

マニュアルというと文章がたくさん書かれたマニュアルを想像するかもしれませんが、実際に会社で使われなくては意味がありません。そして定期的に見直すことが大切です。マニュアルに慣れてしまうと、自分で考える習慣がなくなってしまう傾向があります。定期的にマニュアルに関する意見交換会をし、ブラッシュアップしていくことが大切です。

文章によるマニュアル(作業マニュアル)
 1枚のシートに業務の流れと注意点を文章でまとめます。
 その業務の目的や作業のポイントを記載することで仕事の抜けがなくなります。
映像によるマニュアル
 最近では、携帯のカメラでも十分な映像を撮ることができます。
 また、若い方たちも文章を読むことより、画像を見ることの方が
 慣れているため、作業工程を映像で撮り、そこに解説を加えていくという方法もあります。

 

  主な業務: 内装工事  
  社 員 数  : 20名

問題点

週休2日を実現!なのに、なぜ退職?

働き方改革の取り組みを進め、ようやく週休2日も実現することができました。しかし、今度はやっとの思いで採用をした人がすぐに退職をしてしまいます。どうしたらいいでしょうか?

改善後

社員の要望を聞きながら教育制度を検討!

新入社員は、先輩と一緒に現場を回り、先輩の仕事をみながら覚えていくというスタイルをとっていました。そのため人によって教え方が違い、新人社員からも不満があがっていたことから、まずは教育制度を検討することをはじめました。新入社員といっても経験者もいれば未経験者もいて、同じ教育をすすめていくのは難しいことがわかりました。また、全員が中途採用であるため、会社として統一した教育もしてこなかったという問題点も出てきました。まずは社員から要望を聞きながら、いろいろな教育制度をためしてみることにし、あわせて仕事のやり方の見直しをはかり、定着してもらうためにできることを検討していきました。

①業務のマニュアル化

内装工事業であるため、いくつかの作業工程ごとにベテラン先輩の動きを携帯で撮りました。その画像をもとに社員同士でマニュアル化ミーティングを実施し、作業のポイントをコメントで入れて編集をしていきました。社員自身が映像で残ることで、みる側も親近感がでて、先輩とのコミュニケーションがスムーズにいくといった副次的な効果もでてきました。

②業務の分業化

1つの案件に対して、工程を内部工事、外部工事、仕上げ工事等に分業化させ、経験の少ない社員には1つの工程だけの仕事を与えるようにしました。経験の少ない社員は多くの業務で混乱してしまうことから、1つの工程を繰り返し実施することで、自分の技術に自信をもつことができるようになってきました。

③マナー研修の実施

リフォーム工事では、一般のお宅へ訪問することも多いため、基本的なマナー研修を実施しました。ビジネスマナーは仕事をする上で必要なマナーであることを理解してもらい、挨拶、名刺交換、基本的な言葉遣い等が出来ることで、お客様とのコミュニケーションが円滑になり、だからこそお客様との信頼関係がうまれるということを学びました。会社全員で受講することで、社内の共通言語ができ、会社の雰囲気もよくなりました。

④資格取得の推進

教育について、社員の話を聞いた際に「もっと資格をとりたい」という声があがりました。そのため、本人が勉強したい資格を事前に申請し、その資格の内容によっては受講料の負担、受験料の負担、もしくは合格お祝い金の一定基準を決め、資格取得のための勉強を推奨する制度を採り入れました。社員たちのモチベーションアップになっているようです。今後は仕事に直結しなくても、自己啓発に関する資格や周辺知識に関する資格に対してもバックアップしていく予定です。

● 今後の課題

定着に向けて、業務のマニュアル化や教育についての土台ができてきました。今後は教育も、階層別(管理職、リーダー職、新入社員)と専門能力別との研修の仕組みを作ることで、会社が必要な人材に育っていくためにどういう能力が必要なのかを見える化していくことにチャレンジしていくことが重要です。

1.受け入れ体制が重要

いくら適切な教育をしていても、受け入れる側の社員が現状を理解していないとうまくいきません。「世代間ギャップ」を十分理解してもらい、5年後、10年後の社員を育てることを共通認識としていきましょう。

2.会社は仕事をする場所

教育はとても大事です。ただ、教育に力が入りすぎると、あれもこれもと収拾がつかなくなってしまいます。会社は仕事をするところです。会社として必要なものを精査していきましょう。

3.変化への対応

業務の進め方、必要な教育も時代とともに変わっていきます。常に時代の変化を意識し、何が必要かを考えていきましょう。流行りではなく、本当に必要なものは何か?を見極めていくことが大切です。

 

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