連載

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2022年2月 No.535

業務改善~労働時間の削減~

社会保険労務士法人アスミル
特定社会保険労務士 櫻井 好美

profile:
民間企業に7年勤務後、2002年櫻井社会保険労務士事務所(社会保険労務士法人 アスミル)を設立。
【主なコンサルティング・セミナー内容】
就業規則・労働環境整備、人事評価制度コンサルティング、賃金制度コンサルティング、退職金コンサルティング、働き方改革セミナー、管理職向け労務管理セミナー、建設業むけ社会保険セミナー、介護セミナー、WLBセミナー、女性の働き方セミナー、学生むけ働く前に知っておいてほしいこと 等

職場環境をかえるために

若年者の採用と定着率の向上には、働きやすい職場環境が必要であることを説明してきました。そして、特に建設業においては他業種より休日数が少ないため、労働時間の削減は必須です。しかしながら、単に「週休2日にしよう」という声かけだけでは、時間数は減りません。労働時間を削減するには、現在の業務の内容や仕事のやり方について、課題を発見し、効率的な仕事環境を作り出す必要があるのです。今まで習慣となってしまっている業務がそもそも本当に必要なのか?また効率的なやり方があるのではないか?という業務改善をしていく必要があります。

業務改善の進め方

業務改善を行うには、まず現在の業務の洗い出しが必要です。どの部署がどのような業務をしているか、日々行う業務なのか?月単位なのか?イレギュラーな業務なのか?また他部門との関連はどうなのか?ということを書き出してみることが大切です。ここで現状把握が出来れば、「ムリ、ムダ、ムラ」を発見することができます。業務の洗い出しから、そもそもその業務が必要なのか?標準化できる業務なのか?または外部化をしたほうがいいのか?という観点で解決方法を探っていきましょう。

業務改善の視点

業務改善の本来の目的

業務の洗い出しをし、仕事のやり方の見直しや標準化をすることでムダを省き、効率化をすることができます。効率化は労働時間の削減となり、労働環境の改善につながります。効率化したことで本来やるべき業務に集中をすることができ、企業は利益をあげ、給与として従業員に還元することができるのです。

効率化の考え方

STEP1 やらないことを決める       例:会議、探す時間等
STEP2 やらなくてはいけないことを効率化 例:顧客管理、見積書の作成等
STEP3 やるべきことに集中する      例:新規開拓等

ワークライフバランス

従業員側でいえば、残業がなくなることで自分の時間を持てることができます。空いた時間で自分のスキルアップのために勉強をしたり、異業種交流会にでたりするのもいいでしょう。また、建設業の方であれば、多くの美術館をまわったり、古い建物を見学したりすることで新たな発想がでてくるかもしれません。プライベートでインプットしたことを仕事でアウトプットすること、これが本来のワークライフバランスです。

ワークライフバランス

 

  主な業務: 建材商社  
  社 員 数  : 30名

問題点

単に週休2日にすればいいと思っていましたが・・・
デメリットを考えていませんでした。

週休2日にはなりましたが、相変わらず平日の残業時間は減っていきません。「働き方改革だから」といって早く帰る社員もいれば、今までより残業が多くなっている社員もいます。残業時間を減らし、バランスよく仕事をしてもらうのはどうしたらいいのでしょうか?

改善後

残業が多い原因の実態把握!まずは問題点の課題整理から。

残業の根本的な原因を探っていくため、社内にて「残業の多い原因は何か?」というテーマで研修を実施しました。まず社員全員に、付箋1枚に1案件というルールで、残業の多い理由を書いてもらいました。その結果は、会議が長い、18時が終業時間なのに会議のスタート時間が18時になっている、資料作成が多い、ITに弱い人が多いのでスケジュール管理もホワイトボードのみになっている、事務所に帰らないと見積が作れない、先輩が帰れないから帰れない、教えてもらえないので先に進めない等、様々な意見がでました。これらの原因を大きくわけると3つの課題に分けられます。1つ目は仕組みの問題、2つ目は本人の能力・教育の問題、そして3つ目は風土の問題です。3つ目の問題は簡単に変えられることはできませんが、まずは行動を変えることで習慣化し、最終的には意識が変わり風土につながります。そのため、1つ目の課題を整理していくことから始めました。

①会議のやり方の見直し

まずは社内でどのような会議があるのかという会議の洗い出しをしました。一覧をみると、決まったことの発表の会議が多いことに気づき、そこで会議ルールを決定し、ムダな会議を削減することができました。

ルール

  • それぞれの会議の目的とゴールを決める
  • 本当に必要な参加者に限定する
  • 会議全体の所要時間を決定し、その中でスケジュールを組む
  • 必ず時間で終える
  • 必ず一人一回は発言する
  • 数字の報告だけの会議はやらない

②スケジュールの見える化

社内ではITが苦手な人もいることから、今までIT化がなかなか進みませんでした。しかしながら、業務の効率化にITの活用は必須です。まずは簡単なスケジュール管理からグループウエアを活用することに決めました。ただ、ホワイトボードがあることで従来のやり方にこだわる人もいることから、ホワイトボードを使える期限を決め、最終的にはグループウエアに完全移行していきました。そして、スケジュール管理が慣れてきたところで、勤怠管理、有給管理、時間外申請も少しずつ移行していきました。

③倉庫の整理整頓

業務の効率化を図るためには、社内でムダだと思う作業を取り除く必要があります。1日の業務の洗い出しをすると、物を探す時間が多いことがわかりました。そのため、倉庫の整理整頓に着手しました。これは単に片付けるということだけでなく、元にもどらないように当番を決め、チェック体制を強化しました。また、在庫がどれくらいになったら発注をしなくてはいけないか?どれくらいの量を保管しておくか?等倉庫管理のルールを決めました。

④ペーパーレス化

紙の書類が多く、必要な書類を探すことに時間がとられていることが問題となっていました。改善のため、まず書類の保存期限を決めました。その後、原本が必要な書類とPDFで十分なものを区分けし、原本が必要な書類以外はすべてPDF化しました。PDF化した書類をデータとして保存をしましたが、全員がルールを守った保存の仕方をしないとまた元に戻ってしまうため「ITパトロール」と名付け、常にフォルダー整理をする係を決めました。

● 今後の課題

まずは行動変化として、具体的に変えやすいものより手をつけました。時間に関することは、会社の風土を変えていくことです。まずは小さな行動変化の積み重ねから、意識の変化へつなげていくことが大切です。

1.本来の目的を忘れない

業務改善の目的は生産性向上です。現状よりも効率よく仕事のできる環境をつくり、やるべきところに集中することです。経費削減が目的ではありませんので、効率化すべきものとそうでないものをわけて考えましょう。

2.業務改善が必要な理由を考えよう

日本は深刻な少子高齢化の状態です。今後もこの状況は変わりません。人手不足への対応のためにも効率化は必須なのです。限られた人数でも業務ができるような対策を考えておきましょう。

3.業務改善は永遠に・・・

業務改善は一度きりではありません。時間が経過すればいつの間にか元にもどってしまったり、新たな課題がでてきます。取組が過去のものにならないように、定期的な活動をしていきましょう。

 

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