連載

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2021年4月 No.527

労働時間管理

社会保険労務士法人アスミル
特定社会保険労務士 櫻井 好美

profile:
民間企業に7年勤務後、2002年櫻井社会保険労務士事務所(社会保険労務士法人 アスミル)を設立。
【主なコンサルティング・セミナー内容】
就業規則・労働環境整備、人事評価制度コンサルティング、賃金制度コンサルティング、退職金コンサルティング、働き方改革セミナー、管理職向け労務管理セミナー、建設業むけ社会保険セミナー、介護セミナー、WLBセミナー、女性の働き方セミナー、学生むけ働く前に知っておいてほしいこと 等

 

2019年4月よりスタート

働き方改革関連法案は、2019年4月より随時施行されていますが、その中に「労働時間の状況の把握の実効性確保」という項目があり、これは、労働時間の上限規制の適用除外である管理監督者も含めて、すべての労働者の労働時間を記録することが義務付けられています。労働時間管理とは、何時から何時まで働いたか?ということを日々記録することをいいます。建設業の場合、雨、台風等の自然相手の業務であるため、時間管理がなじまない業界ではありますが、労働者である以上は、すべての方が労働法の対象となり、時間の記録をしなくてはいけません。

労働時間とは?

労働時間とは使用者の指揮命令下にある時間のことをいいます。つまり、会社から指示をされ、業務に従事する時間のことです。

労働時間に含まれる時間 労働時間に含まれない時間
  •  朝礼
  • 手待ち時間
  • やることが義務付けられている掃除の時間等
  • タバコ休憩、お茶休憩、昼休憩
  • 通勤時間
  • 会社飲み会等

法定労働時間と所定労働時間?

法定労働時間とは法律で定められた労働時間のことで、1日8時間、1週40時間までしか働くことができません。所定労働時間とは、会社で定めた労働時間のことをいい、法定労働時間の基準を下回らないように決定する必要があります。

移動時間の考え方

建設業の場合、現場までの移動時間がありますが、この移動時間は労働時間に該当するのでしょうか?建設現場に直行であれば、通勤時間と同様に考えられ、労働時間には該当しません。ただ、一般的には会社に立ち寄り、単独または複数で会社の車両に乗って移動することが多いかと思います。この場合、誰が運転をするか、何時に待ち合わせをするのか等を、会社が決めたのではなく、労働者間で決めたのであれば、この移動時間は通勤としての性質が強く労働時間にはあたらないと判断された判例があります。反対に、集合時間を指示し、その日の段取りをして、積み込み作業をしてからの移動ということであれば、この移動時間は労働時間となります。要は、会社の車両を使うかどうかではなく、その現場までの移動を、会社が義務付けたかどうかで、労働時間かどうかが決まります。

使用者の責任は?

労働時間を適正に把握する責任は、使用者にあります。労働時間が使用者の指揮命令下である以上、時間管理も使用者の義務です。ダラダラ残業であっても、経営者の方が黙認していれば労働時間と解されます。労働時間であれば時間外労働の支払い義務や、36協定に違反する場合もありますので、しっかりとした時間管理をしていきましょう。

 

 某建設会社 

 主な業務: 住宅基礎工事 
社員規模: 16名
創  業: 15年

問題点

労働時間の管理がうやむやで社員からのクレームが発生!

工事部門は日給制であるため、出面表の管理のみで、始業および終業といった時間管理はしていません。朝は置場から乗り合いで現地に向かって仕事をし、帰りは事務所に戻ってから日報作成や翌日の段取りをして仕事を終えています。1日の労働時間は、平均10時間くらいです。また休日は日曜日、年末年始、お盆休みしかありません。一方、事務部門はタイムカードを打刻し、時間管理をしていますが、残業が多く、その残業時間が適正な時間なのかがわかりません。

改善後

作業にメリハリ! 意識改革が働きやすい職場へと変身!

①工事部門での取り組み

出面表のみの管理から、タイムカードの打刻をスタートしました。ただ、出勤に関しては置場から移動のため、まずは終業時間についての打刻から始めました。今まで打刻習慣がなかったため、押し忘れや、事務所でしゃべりながらの作業が続き、遅い時間の打刻が続きました。しかし事務所に戻ってからの日報作成時間は平均的に1時間もあれば終わる作業です。そのため、従業員の方に日報作成については1時間以内で終わらせるように周知をし、1ケ月間タイムカードの打刻もれがなく、残業についても1時間以内に終了できている場合には、奨励金を手当として支給するようにしました。最初は抵抗がありましたが、1時間で日報作成を終わらせることが習慣化でき、現在ではほとんどの人が1時間の残業もなく、業務を終了することができるようになりました。

②事務部門での取り組み

今までの本人任せの残業について、申請制度を導入しました。残業をする場合は、終業の1時間前までに、何の仕事をどれくらいの時間数必要かを申告してもらうことにしました。例えば、急な見積り作成依頼が入った場合等は、「見積書作成のため1時間の残業を申請します。」といったような申請書を提出してもらうようにしました。どれくらい時間がかかるかを記載してもらうことで、作業時間についての意識が働き、今までのような残業時間が削減されました。

残業の申請方法

 

1.労働時間の適正把握のガイドライン

厚生労働省より「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」がでています。
このガイドラインの中に時間管理についての詳細が記載されています。

参考URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html

2.メリハリのある労働時間管理を!!

休憩時間の電話番、毎朝慣習となっている掃除当番等は労働時間に入ります。
また、朝積み込み作業をしてからの移動時間であれば、朝の作業がスタートしてからが労働時間のカウントです。1つ1つの作業が任意的なものなのか?直接指示をしなくてもやらざるをえないものなのか?再度検討してみましょう。

3.適正な労働時間管理が労務管理の第一歩

まずは適正な労働時間管理をすることが大切です。時間を意識することから、生産性向上へ向かいます。若年者の採用には、労働時間の削減は必須です!!

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