建設経済の動向

建設経済の動向
2017年6月号 No.489

「1者入札」「落札率99.9%」を回避

東京都は2017年度、入札制度の改革に乗り出した。東京五輪関連の工事で、入札参加者が1者だけで落札率が99.9%に達する契約が多発していた事態を受けた対策だ。予定価格の公表時期を改めるほか、1者入札の中止などを試行する。「疑念」を晴らす狙いの一方で、改革に伴う受発注者の負担増大や、事業執行の遅れなどの恐れが指摘されている。

昨年、東京都が実施した五輪施設や豊洲市場の工事の入札が、「1者入札、落札率99%以上」だったとして、新聞紙上をにぎわした。
この例に限らず、最近は全国的に工事入札の落札率が上昇傾向にある。とはいえ、「1者、99%以上」というのは特異に映る。しかも、これは例外的な事象ではない。東京都ではここ数年、1者入札や落札率99%以上の入札が頻発。予定価格5億円以上の工事に限れば、2014年度は実に47%が1者入札だった(下図)
こうした事態を受け、外部の有識者と東京都財務局から成る「内部統制プロジェクトチーム」は今年3月31日、「入札制度改革の実施方針」を示し、入札改革に乗り出した。

図 「1者入札」と「落札率99%以上」の入札件数の割合

都民の疑念払拭を念頭に
予定価格は事前公表から事後公表へ

改革の第一弾として、2017年度から実施するのは以下の項目だ。

  • 予定価格の事後公表(全案件)
  • JV結成義務の撤廃(全案件)
  • 1者入札の中止(財務局契約案件)
  • 低入札価格調査制度の適用拡大(財務局契約案件)

予定価格を事前公表すると最低制限価格を類推しやすくなり、そこに入札価格が集中してくじ引きが増えやすい。2014年に改正された「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(品確法)の運用指針では、原則として予定価格は事後公表にすると規定している。
それでも東京都は、公表時期の変更に慎重だった。事後公表の場合、予定価格漏洩による不正のリスクがある。発注件数・規模が他の自治体と比べて桁違いの東京都にとって、リスクの大きさが尋常でなかったからだ。しかし今回、「事前公表は予定価格とほぼ同額の入札を可能とし、競争性などが担保できない」という都民の疑念を払拭することが喫緊の課題だとして公表時期を変更した。入札価格の下限への張り付きではなく、競争環境が不十分で高止まりするという理由で事後公表にする例は、全国的に珍しい。

1者入札は「原則中止」
入札やり直しで受発注者の手間増大も

さらに、金額の大きい財務局契約案件については、入札参加希望者が1者の場合、原則として入札を中止する。東京都の調査によると、他の自治体など9団体が同様の中止制度を採用している。
開札まで他に入札参加者がいるかどうかを把握できないので、これまでの制度でも競争性は担保されていることになっていた。それでも「何らかの方法で他に参加者がいないことが分かれば、99.9%の落札率で受注することが可能ではないか」という声を無視できず、制度を変更した。
2015年度の財務局案件545件のうち、参加希望者が1者だけで入札した案件は92件と、全体の17%に上る。入札中止となれば、再公告のために東京都の職員は発注形態などを見直さざるを得なくなる。発注の条件が変わるので、受注者側も入札の準備をやり直す必要が出てくる。さらに、議会案件などで承認を得るタイミングを逸すれば、五輪関連施設の早期整備に支障を来す恐れも懸念されている。

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