Oops! It appears that you have disabled your Javascript. In order for you to see this page as it is meant to appear, we ask that you please re-enable your Javascript!

連載

連載
2019年9月号 No.511

かわいい土木 昭和レトロなロボットダムはしっかり者の健気な“末っ子”

Photo・Text : フリーライター 三上 美絵
大成建設広報部勤務を経てフリーライターとなる。「日経コンストラクション」(日経BP社)や土木学会誌などの建設系雑誌を中心に記事を執筆。広報研修講師、社内報コンペティション審査員。著書『土木の広報~『対話』でよみがえる誇りとやりがい~』(日経BP   社刊、共著)


 群馬大津駅のホームに降り立つと、どこからか、かすかに水音が聞こえてくる。駅舎も改札もない駅を後に、音をたどって行くと数分で変電所の前に出た。すぐ横に水をたたえた池が見える。ダム湖だ。急な坂の下に大津発電所の建屋。水音が激しさを増す。未舗装の細い通路をさらに進んだ先に突然、大津ダムの本体が姿を現した。

▲大津ダムの堤体。中央の堰柱から左右に2つのローリングゲートがある。堤体の表面には石が貼ってあり、石積みのように見える。

 真ん中に三角屋根の建屋が載った堰柱があり、その両側に腕を伸ばすようにして円筒型のゲート(水門)がついている。スカートを履いたように末広がりな堤体といい、昭和のSFアニメに登場するロボットみたいでユーモラスだ。

 向かって右側の水門からは瀑布のように水が流れ下っている。先ほどから聞こえていたのはこの音だ。見た目のドボかわいらしさとは裏腹に、間近で見る放流の迫力に圧倒される。通路の先へ進んだとき、風が吹いて、顔に思い切り放流のミストを浴びた。ダムマニアさんたちの喜ぶ「ダム汁」だ。暑さで火照った頬には気持ちがいい。

▲ダムから100数十m離れて建つ大津発電所。建屋の地下に発電用水車がある

転がりながら上下する「ローリングゲート」

 大津ダムは、東京電力ホールディングスの発電用ダムだ。形式は、自重によって水圧を支える「重力式コンクリートダム」。堤体の表面には石が貼ってあり、一見、石積みのようにも見える。

 このダムの特徴は、ゲートにある。円筒形の扉体が回転しながら開閉する「ローリングゲート」が採用されているのだ。円筒の両端には歯車が付いていて、ワイヤーを巻き上げると円筒が回転し、歯車が柱に取り付けたギザギザのレールと噛み合って上り下りする仕組み。

 ローリングゲートは円筒形なので、板状の扉体よりも水圧に耐えられる。ダム湖の水が多いときは、ゲートを閉めたままで上部を越流させることもできる。このため、ゲートの幅に対して高さを低くしたい場合に使われた。だが最近は、シェル型(箱型)のゲートが主流になっており、東京電力のダムで残っているのは、ここだけだという。

 堤の高さは約20m、幅が約74m。日本では堤高15m以下は堰、それ以上をダムと呼んでいるから、大津ダムはダムとしては小ぶりなほうだ。ダムは重厚長大なものが多く、「かわいい土木」の連載にはこれまでほとんど登場しなかったが、これならぴったりだ――。そう思ったのだが、実際の大津ダムは、ダムならではの迫力と風格を兼ね備えていた。

▲ローリングゲートの端からギアが少し見えている。

上流の発電所からの変動する流量を受け止める

 面白いのは、「逆調整池式」と呼ばれるこの発電所の役割だ。  水力発電は、水を高所から低所へ流す落差エネルギーによって水車を回すことで電気を発生させる。電力の需要は日中に多く、夜間は少ないため、水車を回した後に放流される水の量は昼と夜とで大きく変化する。発電所の下流で川の水を利用する場合、水が極端に減ったり多すぎたりすれば支障を来してしまう。

 そこで、上流に位置する発電所で使用した水をいったん溜めて、そこから常に同じ水量を川に戻すようにする。このためのダムを「逆調整池」と呼ぶ。大津ダムと発電所は、このタイプなのだ。

 大津発電所ができたのは1931(昭和6)年。吾妻川の上流域には、鹿沢(田代)、西窪、今井、羽根尾、大津の5つの発電所がある。現在ではいずれも東京電力が管理しているが、大正末期から昭和初期にかけて、これら一連のダムを建設したのは吾妻川電力という会社だ。当時、関東大震災後の復興で工場の電力化が進み需要が急増した一方、石炭の暴騰によって火力発電が衰退し、水力発電所の建設が盛んになっていた。

 大津発電所は同社の建設した中では最下流に位置する“末っ子”。最上流の田代湖から導水した水を各発電所が順に使い、最後に羽根尾発電所からの放水を逆調整池(大津ダム)に溜める。そこから15mほどの落差を利用して発電した後、一定量の水を放流している。

 最大水量は大きく、落差は小さい。しかも流量は激しく変動する。この条件をクリアするために、発電所の水車には、可動式の羽根をもつ「カプラン水車」が導入されている。流量が少ないときは羽根の開く角度を狭めて効率を上げる仕組みだ。

 上流の兄さんダム、姉さんダムが思い通りに発電して変動した流量を受け止め、自分もきちんと発電しつつ、下流に迷惑のかからないよう、一定量にして水を川へ返す。大津ダムと発電所は、そんなけなげな末っ子なのである。

▲発電所の裏には古い水門がある。

■アクセス JR吾妻線群馬大津駅から徒歩約5分。車の場合、前橋から国道406号を経由し1時間30分程度。

過去の「ドボかわ」物件を見逃した方も、全部見ているよという方も、
こちらをクリック! 魅力的な土木構造物がいっぱい

  

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
メールマガジン配信希望はこちら