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連載

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2019年5月号 No.508

かわいい土木 ズラリと並んだ「水」型橋脚が 支える“空中の川”

谷や川、道路などを越えて水を運ぶために架ける水路橋。橋の上に水圧管を載せるタイプと、上部構造をそのまま水路として使うタイプがある。栃木県那須町にある膳棚水路橋は後者。水路の側壁を支える三角形のバットレス(控え壁)や、「水」という文字にも見える特殊なカタチの橋脚など、地味ながらよく見るととても凝ったデザインだ。

Photo・Text : フリーライター 三上 美絵
大成建設広報部勤務を経てフリーライターとなる。「日経コンストラクション」(日経BP社)や土木学会誌などの建設系雑誌を中心に記事を執筆。広報研修講師、社内報コンペティション審査員。著書『土木の広報~『対話』でよみがえる誇りとやりがい~』(日経BP   社刊、共著)


空中を川が流れている――。水路橋を上から覗くと、開渠かいきょ(蓋のない水路)の中を勢いよく流れる水が見えた。地上では、水音は聞こえても、桁の上がどうなっているかは分からない。斜面をよじ登ってみたら、いきなり水だったのでちょっと驚く。橋の上を水が流れていくさまは、なかなかレアな光景だ。

自然流下の勾配を保つため高所につくられた水路橋

▲上から見ると、水路橋の上部構造自体が水路になっているのが分かる。

膳棚水路橋は、栃木県の北東部、那須町にある水力発電所「黒川発電所」へ発電用水を導水するための橋だ。

水力発電では、水の落差を利用して発電用タービンを回す。黒川発電所はダムを持たず、川の上流から取水した水を自然流下させることで落差を得る水路式の水力発電だ。それには、取水口から一定以上の勾配を維持したまま発電所まで導水する必要がある。

取水口は黒川と余笹川の上流2カ所にあり、そこから取水した水が、約5kmの導水路を通って発電所へ送られる。区間の大部分は山間部なのでトンネルだが、この場所だけ平地を通ることから、高さ4.5mの位置に橋が架けられた。

黒川発電所と膳棚水路橋が竣工したのは、1921年(大正10年)。当時は電力の自由競争時代で、全国各地で数多くの中小電力会社がしのぎを削っていた。黒川発電所も、当初に計画をしていた地元の大田原電気から、合併によって誕生した塩那電気が引き継いで着工した。

塩那電気は栃木県北部の大半を供給区域としていたものの、面積が広く、そもそも発電所の出力が足りないうえに、配電線延長が長いことによる電力ロスが加わり、需要に供給が追いついていなかった。

この課題を解決するために建設されたのが、出力800kWの黒川発電所だ。塩那電気の中では最大規模の発電所となった。塩那電気はその後も合併を繰り返し、1951年の電気事業再編成で東京電力となって現在に至る。

芸術性へのこだわりが生んだ「水」型橋脚と三角バットレス

膳棚水路橋に近づいてみると、橋脚の形が「水」になっていることに気づいた。橋の構造はRC(鉄筋コンクリート)ラーメンで、橋脚は3本の柱にX字型の筋交いを組み合わせたものが1セットになっている。橋の下に立つと、橋脚が水水水水…と連なって見えてドボかわいい。

▲ズラリと並んだ「水」のカタチの橋脚が、自ら水路橋であることを主張している。ただし、意図されたものかどうかは神のみぞ知る。

上部構造も、水路の側壁を支える三角形のバットレスが幾何学的なリズムを生んでいて見た目にも楽しい。RCラーメン自体が大正期にはまだ珍しく、土木学会関東支部によれば「この時代の発電用水路橋では日本唯一と見られる」という。

膳棚水路橋と黒川発電所を建設したのは、静岡の勝呂組だ。同社は1962年に住友建設、つまり現在の三井住友建設に合併され、今はもうない。だが、その10年前に発行された社史「勝呂組創業七十年誌」を図書館で見つけた。

驚いたのは、その冒頭の文章のタイトルだ。「建築土木の芸術的性格」とある。

そこには「建築は芸術的創造であり、城郭のように建築と土木の合成体もあることから、土木もまた美的芸術的性格を帯びている」という趣旨が強調されていた。

▲水路橋の上流側。導水トンネルから開渠に切り替わる。

静岡を拠点とする勝呂組がこの工事を受注した理由は、水力発電に実績があったからだ。1916年に社運をかけて山梨の桂川電力の河口湖発電所工事を受注し、苦労を重ねながら難工事を見事に竣工させた。社史の回想録の中で当時の社長は「一時は現場主任とダイナマイトを抱いて爆死し、責任を取ることを覚悟した」とまで語っている。

膳棚水路橋のデザインが同社によるものかどうかは、資料からは分からなかった。塩那電気の設計かもしれないが、水路橋は電気系統とは直接関わらない付帯工事であることを考えると、勝呂組の設計施工もありうるのではないか。

いずれにしても、膳棚水路橋の構造美、機能美は、土木の芸術性を謳う勝呂組がつくり上げたもの。橋脚が「水」の文字に見えるのは単なる偶然かもしれないが、デザインにこだわるこの会社なら、意図的にそんな意匠を取り入れたとしても不思議はないように思えるのだ。

▲導水路の最終地点。黒川発電所の屋根が見える。

▲膳棚水路橋は、国道294号の脇の田んぼを跨ぐ形で架けられている。

■アクセス
JR黒磯駅から車で約25分。町民バスの場合、「追分・黒磯駅線」の稲沢停留所から膳棚水路橋まで徒歩7分ほど。そこから黒川発電所へは逆方向に徒歩約20分。

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