連載

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2018年7・8月号 No.500

事業承継成功事例(事業承継の実現は現経営者の最重要業務)

藤原コンサルティング 代表 藤原 一夫
大手建設会社に30年勤務し、現場所長、内勤管理職を経て、藤原コンサルティングを設立。東京都、神奈川県等の中小企業再生支援協議会で建設関連の専門委員を務める。中小企業診断士・1級建築士・1級建築施工管理技士。一般社団法人建設業経営支援協会理事長。


第4回となる今回は、事業再生と事業承継を同時に達成したサブコン(専門工事業者)の事例をご紹介させていただきます。この会社(以下、B建設)は、事業承継の準備を殆どしていませんでしたが、半年という短い期間で後継者の選定を行い見事に成功しました。本来であれば事業承継には何年も要しますが、人材確保と十分な設備投資を長年にわたり実行できていたことが、ポイントになったと思われます。

事例Ⅱの概要

特化した専門工事業(鉄道関連土木・障害物撤去工事等) 所在地:某所
特色ある専門工事業(鉄道関連専門)の事業再生と従業員への事業承継(2代目)

創業当時は、ユンボ1台、創業者1人で、2・3次下請けの仕事を受ける中で、ある元請会社の現場責任者にその仕事ぶりが認められ、その会社専属の一次下請けとなりました。当時は高度成長期真只中で、鉄道整備網が急がれていたことが功を奏し、業務拡大に成功しました。ところが、創業者は元請会社に対してお世話になったとの思いが強く1社から偏った受注をしていたため、その元請会社からの仕事がない半年の間に会社経営が行き詰まりました。
さらに、創業者が「自前の機械で」、「自前の職人で」、「良い仕事を」にこだわりすぎ、受注量の変動に柔軟な対応ができない経営体質になっていました。その結果、大幅な営業利益の損失を3年連続し債務超過となり、メインバンクが支援協議会に相談したところから私が関わることになりました。
創業者、専務、従業員等のヒアリング、メインバンクの債権管理部署との打ち合わせを重ねて、「創業者が高齢で(当時80歳)あること」、「子供に後継候補者がいないこと」から、事業再生計画書作成と並行して急遽、従業員の中から後継者を選定することになりました。
そこで、経営改善・事業承継の課題を次のように設定し各対応策を実行していきました。

経営改善の課題

① 組織体制の整備とスムーズな経営者の交代

課題
創業者の事業意欲は高いが、合理的な考え方が苦手でワンマン経営であった。後継者を置かず事業継続意識が低かった。(事業承継の準備不足)

対応策
・ 組織体制の整備と権限・責任の明確化
・ 後継候補者を早期に選定⇒経営参画⇒段階的権限の委譲
・ 評価制度、賃金体系の確立

② 営業力の強化(受注先の分散化と平準化の実現)

課題
積極的な営業活動はせず、基本的に待ちの受注スタイルであった(営業担当が不在)。
常傭工事の受注案件が多く、工事完了時に精算するケースが多く見られた(着工前に見積もり⇒契約が出来ていない)。

対応策
・ 営業部署の設置
・ 営業担当者の責任・権限の明確化
・ 自社の原価を適正に把握した「見積書の作成」能力の強化
・ 元請会社側の責任者の年齢に見合ったベテラン(現場経験が豊富)営業担当者の選定(40~50歳代)
・ 提案力、新工法(建設機械改造力)の強化⇒同業他社との差別化⇒受注獲得・利益獲得に活かす
・ 新規顧客開拓の営業力強化(受注先分散化によるリスク分散と平準化受注の達成)
・ 土木コンサルへの営業力の強化(川上への技術提案等の実施)

③ 原価(利益)管理の徹底

課題
工事原価の半分を占める「特殊建設機械」などの適正な「減価償却」ができていない。
常傭工事が多く、原価管理意識が低い。

対応策
・ 自社所有機等の標準振替単価を明確にする。(振替単価表の作成)
・ 現場責任者(職長等)による実行予算の作成と目標利益管理の実施
・ 従来から実施している安全・品質検討会に加えコストダウンの為の施工検討会も実施
・ 提案力、新工法(建設機械改造力)を利益獲得のために設計変更・追加工事に活かす

事業承継の課題

① 事業後継者の選定(早急な選定が必要であった)

現状
創業者は、経営の後継者については、選定~育成には着手していなかったが、優秀な技術者、技能者、特に職長の育成には、熱心に長年取り組んでいた。したがって、40歳代の優秀な現場リーダーが在籍していた。

課題
創業者が推薦した最初の後継候補者は、32歳の職長X氏でした。(創業者は、仕事が趣味的なこともあり、出来るだけ長く、今の立場で仕事を継続したいという意思が覗えた)

対応策
しかし、経営改善の為の課題解決にはX氏のみでは難しいとの判断から、さらに2名(職長をしているY氏(42歳)、Z氏(48歳))の後継者候補を2名追加選定し次世代経営層とした。

結果
次世代経営層3名の中から、創業者は実力と人望を兼ね備えたZ氏を後継者に最終指名し、自身は退陣を決意した。

② 次世代経営層等の株式取得

課題
次世代経営層等に株式を譲渡する必要がある。

対応策
債務超過となっている現株式は無価値(株式価値評価の実施)であったことから、株主に無償譲渡(返却)を依頼し、全ての発行株式を一旦金庫株とすることが出来ました。(創業者の努力と実行力)

結果
再生計画実行1年後に、後継者Z氏には、65%の株式の無償譲渡、経営層2名(X氏、Y氏)及び職長4名に残りを分配し会社の再生に協力いただくこととしました。また、後継者は6億円の借入金の連帯保証を引き受けた。(これはすごい決断です!)

③ 事業後継者の経営者教育

課題
後継者Z氏は、約20年、現場一筋(職人及び職長)できたことから経営に関しての知識は無かった。

対応策
・ 資金繰り表の作成(約2ヶ月で資金繰りの知識を取得!)・営業・現場情報の経営管理ができるようになり、1年で営業利益をプラスにできた。
・ 職人から営業担当へ2名配置換え、さらに2名を中途採用し、営業体制が確立されたことで受注先の分散化、平準化に成功。

急遽の事業承継が比較的スムーズに実行できたポイント

① 人材と設備に投資をしていたこと
元請会社から仕事を受注するためには、良い働き(質の良い仕事)をする必要があるという考えから、社員への現場教育の徹底、同業他社よりも高い給料を支払う等の改善を行ってきました。また、業績の良い時代には特殊建機・新工法の開発に力を入れてきたことが、結果的には他社との差別化を図れる「経営資源」となっていました。それらを活かす営業力の強化により、早急な業績改善が実現したと思われます。

② 事業後継者の資質と努力・経営幹部の教育訓練へ
事業後継者は研修に参加する等、積極的に経営知識を習得すべく日々努力をしています。自身の学びを通じて教育の重要性に気づき、経営幹部に対しても継続的な教育訓練を実施しています。(切羽詰まると本領が発揮できるのかも!時には高い壁を乗り越えることも大切だ!と思う次第です。)

最後に

本連載は今回をもって終了となります。全4回にわたり事業承継について掲載してきましたが、皆さまの一助となれば嬉しく思います。また、どこかでお会いする機会がございましたら、ぜひお声がけください。これまで、ご覧くださりありがとうございました。

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