連載

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2018年5月号 No.498

事業承継の手順について(事業承継の準備は早ければ早いほど良い!)

藤原コンサルティング 代表 藤原 一夫
大手建設会社に30年勤務し、現場所長、内勤管理職を経て、藤原コンサルティングを設立。東京都、神奈川県等の中小企業再生支援協議会で建設関連の専門委員を務める。中小企業診断士・1級建築士・1級建築施工管理技士。一般社団法人建設業経営支援協会理事長。

事業承継の実態は千差万別

既に「事業承継準備作業」に取り掛かっている経営者の方々もおられるでしょうが、これからと考えているが、どのように準備し後継作業を進めるべきか?を迷っている方々への指針として、参考程度の標準的なステップを紹介させていただきます。
野帳場の工事が各現場の外部環境等を勘案し、それぞれの工事で違った全体工程表の作成、工事計画書の作成、下請け業者の選定、等々の準備をするのと同様に、一見同じように見える子息への事業承継問題でも現実には案件別に大きく異なることが殆どです。
特に、経営者の突然の死による承継は、高齢経営者の場合は準備が出来ている場合も多く見受けられますが、働き盛りの40代、50代での突然の死去は、共同経営者の存在が無い限り、事業売却がセオリーと言われています。しかし、いろいろな課題を乗り越え、見事に承継に成功した例があります。
それは、バブル崩壊後の20年前、某道路関係土木ゼネコンの創業者が56歳で、急死した企業の承継事例です。諸般の事情から事業継続をせざるを得ず、経営に携わっていなかった素人の奥さんが次男と共に引き継いだのですが2年もしないうちに財務状況が極端に悪化し、事業継続が難しい状況となりました。そこで某有力商社に12年前に就職し、活躍していた長男に泣き付き、社長になっていただいたのです(母の力です)。承継社長が一年目に実行したことは、自社の事業を分析し、土木からの撤退と建築工事への進出というきわめて戦略的な事業転換でした。当時は、建築関係もコスト競争の激しい時期でしたがそれには巻き込まれず、差別化戦略として10名の建築設計者を営業兼設計・監理として雇用し(他の営業職はゼロ)、「地域の信頼度」の高い建設企業の遺産を見事に活用し、5年足らずで事業承継と企業再生を同時に成功した(社長談)事例です。
小生との出会いは、10年ほど前に、ある公共機関のセミナーをきっかけに、下請け企業の組織化について相談依頼を受けて企業訪問した時です。当時は、建築土木に拘わらず、購買部門を新設し、競争原理を働かせ、新規の協力業者を探し、自社の利益を確保する相談が殆どでしたが、彼の相談は違っていました。協力会を組織し、共に生き抜く集団(グループ)をどのように運営していったら良いか?というモノでした。
 その社長さんは、12年間の商社勤務で、建設企業経営者に欠けがちな「経営環境変化に適応すべき挑戦的経営戦略」について学んできたのではないか、と感じました。(個人の能力もありますが、実務での経営幹部の人材教育が企業の戦略性をアップするのです。商社勤務時に後継者教育を結果的に受けたことになる?)
今現在は、ある建協のリーダ的存在になっており且つ事業も拡大し、環境変化に合わせて進化した経営戦略を実行しているようです。

事業承継に向けたステップ

図は、白書の中で事業承継に向けたステップ表ですが私なりに解説すると下記のようになります。

ステップ1
先ず現経営者が事業承継の必要性を本当に認識する必要がある!
・後継の準備は、早いに越したことはない。(計画的取組が可能)
・10年程度の時間を掛けるのがベターと心得るべきである。
ステップ2
経営状況・経営課題の「見える化」をすることでどのような事業承継がベストかを判断する資料とする必要がある!
・会社の現状(人・モノ・金等々)
・経営者自身の資産状況等
・後継者候補のリストアップ(複数、3名程度が望ましい)
ステップ3及び4
事業改善計画書及び事業承継計画書の作成
・承継の方法・後継者候補の確定(複数可)
・現経営者と事業承継者(複数可)の共同作業で作成すべき。
ステップ5
具体策の実行
・利害関係者の理解を得る作業は最重要である。
・事業承継計画書の公表
・経営者教育と組織体制の再構築の実施

事業承継で注意するポイント

1.承継者の選定
承継者の選定は、最重要です。能力重視が基本ではありますが、それが関係者の意見、ご理解を得る過程で、難しい場合も多く出くわします。その場合は、その人材を入れた「集団経営層」を数名で形成し、後継者を支える組織集団とすること、且つ管理会計システムの構築を通じた経営情報の共有化を図ることは不可欠と思われます。
兄弟一緒の後継は原則避けるべきです。少ない事例ですが、特にトップ決定に奥さんが決定権を行使した場合に問題があったケースが小生が関わったなかで3件ほどありました。(原則、母親は弱い方の子供の味方です。)
2.親族外への承継
親族外(従業員(役員含む))への承継の場合は、より利害関係者への理解を得ることは重要です(覚書等で記録に残す等)。また、借入金の連帯保証の問題で躊躇する場合が多い現実があります。(金融機関との事前の話し合いが重要です・・・最近、優良企業では特別配慮する場合もあります)
3.権限委譲と持ち株の譲渡
権限委譲と持ち株比率はパラレルに実施し、最終的にトップの持ち株比率を2/3以上としてから代表取締役就任とするのが後々のトラブル防止に重要です。(この権限移譲と持ち株比率の実施は、親族、親族外、外部人材、を問いません。特に中小建設企業では、経営権と所有権を分離しての経営体制の維持は、(将来は解りませんが、)今現在は、無理ではないかと理解しています。)
4.承継時の贈与税・相続税の支払い負担
中小の場合、平成35年3月末までに特例承継計画を提出し、平成39年12月末までに承継を実施した企業には、事業を継続する限りにおいて相続税・贈与税ゼロで承継が可能になりました。(親族以外も対象となった。また、一人ではなく、複数(最大3人)の後継者への承継も対象。また、承継をスムーズに進める為、民法の遺留分についても現物ではなく金銭解決できるように配慮等。)・・・詳しくは顧問税理士に相談してみてください。

最も重要な利害関係者は現経営者が自分自身であることを自覚!

承継の決断、後継者候補の選定等々も現経営者の意思決定ではありますが、それ以上に現経営者に認識していただきたいのは、スムーズな承継で欠かせない最重要事項である「利害関係者の理解を得る」の中で、自分自身の承継への理解が一番の課題(乗り越えるべき問題)であることです。
承継後の企業での自分自身の立ち位置、役割、いずれの時期に会社を離れて何をするか、必要ならアドバイスを受けながら自分自身で「終活」を決めなければなりません。(承継計画に必ず必要な最重要な項目です。)
時間が経つのは早いものです。先ず、事業DD、財務DD、自身のDDを実行し、後継候補の選定を始めてみては如何でしょうか。
(注記:DD=Due Diligenceの略でビジネス用語では、調査・分析の意)

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