日本経済の動向

日本経済の動向
2025年12月・2026年1月号 No 574

米最高裁の判断次第で歴史的危機に瀕するFRBの独立性

トランプ関税よりも市場への影響は深刻 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 プリンシパル 小野亮

米金融政策に対するトランプ大統領の関与は口先介入から人事という「実弾」にシフトしている。FRB理事の1人に側近を送り込み、別の理事には難癖をつけて解任を通告、その正当性を米最高裁で争う。さらに米最高裁が扱う別訴訟では、米大統領の人事権に一定の制限を設けてきた従来の判例が覆る可能性も出てきた。今回は、市場への影響が深刻な、FRBの独立性の危機に関する動きについて解説する。

トランプ派の加入と理事解任に揺れるFRB

トランプ大統領は常日頃からパウエル議長を「遅すぎる男」と批判してきた。口先介入によって利下げを強要しようという狙いは明白だが、2025年夏以降、トランプ大統領は人事という「実弾」を使って米連邦準備制度理事会(FRB)を揺さぶるようになった。

1つは、2026年1月の任期切れを待たずに辞任した理事の後任として、自分の側近であり、大統領経済諮問委員会(CEA)委員長でもあるスティーブン・ミラン氏を送り込んだこと。ミラン理事は、25年9月と10月のFOMCで小幅利下げに反対し、大幅利下げを主張している。もう1つは、住宅ローンの詐欺疑惑を理由とするクック理事への解任通告である。同疑惑の真偽も明らかではない中で、トランプ大統領はSNSを使って一方的に解任を通告。当然クック理事はこれを不当として訴訟を起こし、騒動の行方は米最高裁に委ねられた。

この先、26年5月にはパウエル議長の任期も切れる。理事として28年まで留任できるが、もしパウエル議長がFRBを去り、クック理事の解任を米最高裁が認める判決を下せば、FRBでは7人中5人がトランプ派で占められることになる。

米金融政策が米大統領の意のままになる恐れ

FRBの過半数をトランプ派が占めることになれば、米金融政策は大統領の政治的ツールに成り下がる恐れがある。FRBには地区連銀総裁に対する強力な人事権が与えられており、FRBだけではなく、地区連銀総裁もまたトランプ派一色となりかねないためだ。

全国に12ある地区連銀は、5年ごとに総裁を選出する。次のタイミングは26年2月だ。トランプ派となったFRBの承認を得るには、地区連銀はトランプ大統領の意向をくむ人物を総裁候補として選ばざるを得ない。

これは米金融政策を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)の判断に多大な影響をもたらす。FOMCには7人のFRB理事と12人の地区連銀総裁が参加する。このうち投票権を持つのは、FRB理事全員と、恒久的投票権を持つニューヨーク連銀総裁、毎年輪番制で投票権が入れ替わる4人の地区連銀総裁の計12人である。こうした投票権の配分の背後には、首都DCにあるFRBを重視しつつ、地区連銀による牽制を働かせる狙いがある。FOMCの決定は、雇用や物価、金利や為替レートなどを通じ米国民の生活に大きな影響を与えるためだ。

しかし、FRBのみならず地区連銀総裁らもトランプ派となれば、この牽制システムは機能しなくなる。

FRB理事は連邦準備法(=議会)が保護

トランプ大統領は人事を使ってFRBに揺さぶりをかけているが、FRB理事の解任には高いハードルがある。FRB理事の地位は、連邦準備法によって一定の保護が与えられているためだ。同法には、大統領が理事を任期の途中で解任できるのは「正当な理由がある場合に限る」と定められている(for-cause罷免条項と呼ばれる規定)。

もともと、米合衆国憲法の下では、大統領には行政職員に対する広い人事・解任の権限が認められてきた。「大統領が解任は妥当と考えること自体、正当な理由になる」という考え方も一般的であり、大統領の人事権は極めて強力とみなされていた。しかし、1935年に下された重要な判決(ハンフリー遺言執行者事件)によって、それ以降、現在に至るまで、日本の公正取引委員会のような独立機関の長については、議会が法律でその地位を保護することが合憲と認められるようになったのである。

議会による人事・解任制限の合憲性が争点に

FRB理事に対するこうした法的保護が、今後、大きく覆される可能性が出てきている。米最高裁は、FRBとは別の独立機関に関わる訴訟において、「議会が法律で定めるfor-cause罷免条項は合憲か。合憲でなければ35年判決は覆されるべきか」「大統領の解任を裁判所は止めることができるのかどうか」について、原告と被告の双方に意見書の提出を求めた。米最高裁は、この2点を真正面から審理する姿勢である。

「FRBは例外的に保護対象」という判断が下ればよいが、米最高裁がどのような判断を下すのか、注視していく必要がある。

 

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