現場の安全12か月!

現場の安全12か月!
2025年10月号 No 572

10月 外国人特有の労働災害を防止しよう!

独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域特任研究員 高木元也

建設現場での安全活動は日々行われているものの、それでも起きてしまう事故。
本稿では、四季の移り変わり、年中行事、1年の流れなどを踏まえ、毎月のテーマを掲げ、重点的に安全活動を行うことを提案するものです。現場の安全活動をより活発化させましょう!

10月 外国人特有の労働災害を防止しよう!

近年、日本では、人手不足を背景に外国人労働者が増加しています。データをみると、外国人労働者数は、平成20年の48.6万人から、令和6年には230.3万人と、この16年間で4.7倍と大幅に増加しました。

そこで心配されるのが、外国人の労働者の労働災害です。事実、建設業で働く外国人労働者の千人率(令和3年)は8.5と、建設業全体の4.5と比べかなり高くなっています。この原因には、日本語がよくわからず安全指示などが伝わりにくいこと、文化の違いにより日本の仕事の進め方が十分に理解できないことなどがあります。

1年間労働者千人当たり休業4日以上死傷者数

外国人労働者の災害は、墜落・転落よりも“はさまれ・巻き込まれ”が多い

建設業の労働災害(令和5年)を事故の型別にみると、全労働者では墜落・転落が最も多い災害ですが、外国人労働者は、はさまれ・巻き込まれ災害が一番多く、ここに外国人特有の原因がありそうです。

例えば、道路舗装工事で、小型締固め機械(ダンパ)を用いて締固め作業を行っていた外国人が、後退してきた10tトラックに轢かれて亡くなった事故事例がありました。他の作業員は退避していたことから、日本語が理解できておらず、当日の作業予定や退避指示が伝わっていなかった可能性が指摘されています。

バックホウの危険を感じた経験年数1年未満の日本人、外国人の労働者を対象に、その原因をきいたところ、外国人は、「どこに危険があるのか、よくわからなかった」「バックホウの動きが、よくわからなかった」がとても多い一方、日本人は、「作業半径内立入禁止エリアに勝手に立ち入った」がとても多い結果となりました。危険がわからない外国人と、わかっているけどそれを軽視する日本人との両者に大きな違いが見受けられ、起こりやすい災害にも表れていると言えそうです。

対策とポイント
対策1:事前に安全衛生教育を実施しよう!

外国人労働者には、現場に入る前に、あらかじめ現場の危険を教育することが必要です。厚労省、建災防等のHPにある視聴覚教材等の活用が勧められています。数多くの国の言語に対応しています。

事例1 厚生労働省:建設業向け外国人労働者の安全衛生教材(テキスト、視聴覚教材)

対応言語が11か国語と豊富です(日本語、英語、中国語、ベトナム語、フィリピノ語、カンボジア語、インドネシア語、タイ語、ミャンマー語、ネパール語、モンゴル語)。

建設業に従事する外国人労働者向け教材

事例2 建設業労働災害防止協会:外国人労働者のための労働災害事例等の視聴覚教材

作業ごとの安全衛生対策のポイント(47作品)や代表的な労働災害事例(35作品)を動画により視聴できます。
対応言語:中国語、ベトナム語、インドネシア語、英語

外国人建設就労者のための安全衛生教育映像教材

対策2:会話を弾ませよう!

日本語が十分に理解できない外国人労働者は、積極的にコミュニケーションをとろうとしません。このため、みなさんの方から進んで外国人労働者にコミュニケーションをとってみましょう。そうすれば、間違いなく外国人労働者の励みや助けにつながり、これが外国人労働者を守ることにつながります。

「やさしい日本語」――外国人の理解が進むよう、簡単にした日本語(小学3年生レベル)を使用しましょう。

参考:出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン 話し言葉のポイント」

対策3:文化の違いを理解しよう!

例えば、ベトナム人労働者に、指示をした後、「わかった?」と尋ね、「わかりました」と答えても、理解していないことがあります。ベトナム人は、目上の人に何か言われた時に「わかりません」と言うと、「あなたの説明が下手だからわからない」と思われてしまうのをいやがります。目上の人に恥をかかせたくないという気持ちから、「わかりました」と言ってしまうのです。

「時間を守る」ことについても、これをあまり重視しない生活環境の中で育てば、多少遅れてもよい感覚をもつようになります。外国人労働者が生まれ育った国や地域との文化の違いにより、様々な面で物事のとらえ方の違いが生まれます。このことを十分に理解する必要があります。

高木 元也 (たかぎ もとや)
独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域特任研究員 博士(工学)
名古屋工業大学卒。総合建設会社にて施工管理(本四架橋、シンガポール地下鉄等)等を経て現職。現在、建設業労働災害防止協会「建設業における高年齢就労者の労働災害防止対策のあり方検討委員会」委員長等就任。
[主な著作等]NHKクローズアップ現代+(あなたはいつまで働きますか?~多発するシニアの労災他)、小冊子「現場のみんなで取り組む外国人労働者の災害対策・安全教育」(清文社)他。

 

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