現場の安全12か月!
6月 夏場の最優先課題は熱中症対策―6月から暑さ本番
建設現場での安全活動は日々行われているものの、それでも起きてしまう事故。
本稿では、四季の移り変わり、年中行事、1年の流れなどを踏まえ、毎月のテーマを掲げ、重点的に安全活動を行うことを提案するものです。現場の安全活動をより活発化させましょう!
6月 夏場の最優先課題は熱中症対策―6月から暑さ本番
2023年、国連事務総長が、気候変動進行の影響が危機的であることから「今や地球温暖化ではなく地球沸騰化の時代だ」と発言するなど、世界中で夏場の異常な暑さが続いています。
わが国の職場の熱中症による死傷者数の推移をみると、埼玉県熊谷市で国内最高気温41.1℃を記録した2018年以降2024年までの年平均は951人と、500人前後で推移してきたそれ以前と比べ、死傷者数は一段と増加傾向にあります。昨年は職場で30人が熱中症で亡くなり、このうち建設現場では10人の尊い命が失われています。5月20日に気象庁が発表した3か月(6~8月)予報では、暖かい空気に覆われやすく全国的に気温が高くなると見通され、昨年と同様、今年も暑い夏になりそうです。
また、6月に改正労働安全衛生規則が施行され、事業者に熱中症対策が罰則付きで義務付けられました。現場における熱中症対策の重要性は、ますます高まっています。
熱中症を引き起こす要因
熱中症は身体に熱がたまり過ぎることにより深部体温が上昇し発症します。熱がたまる要因としては、暑熱環境下にいる、筋肉を使うことにより熱が生まれる(熱産生)などがあげられ、夏場の炎天下で重労働を行う建設現場では大量の熱がたまりやすいといえます。また、コンクリートの上、敷鉄板の上、トラック荷台の上、組み立てられた鉄筋の上などの照り返し(輻射熱)が強い場所での作業も身体に熱がたまりやすくなります。
身体に熱がたまると体温が上昇するため、体温の維持をコントロールしている脳が、たまった熱を放出しようとします(体温調節力)。熱の放出は、血液がたまった熱を吸収し、皮膚表面にある毛細血管まで運び、汗をかくこと(気化熱)などで行われます。
ただし、身体の状態によっては熱をうまく放出できないことがあります。代表的な例として、①脱水症になっている(血液がドロドロになりうまく熱を運べない)、②暑熱順化していない(汗がうまくかけない)、③基礎疾患がある(糖尿病などの疾患があるとうまく熱を出せない)、等があげられます。
また、草むら、タンクの中など湿度が高い場所での作業は、たまった熱が放出しにくいことに注意が必要です。
熱中症対策(例)
■ 暑さ指数(WBGT値)を計測する
現場で暑さ指数(WBGT値)を計測し、体に熱がたまりやすい日かどうか確認します。暑さ指数(WBGT値)は、気温、湿度、輻射熱(照り返し)で構成されています。このため、コンクリートや敷鉄板の上など照り返しの強い場所や、草むらなど湿度の高い場所は、WBGT値が高くなりやすく注意が必要です。
■ 水分・塩分摂取量を管理する
脱水状態を防ぐためには、大量の水分摂取が必要です。厚生労働省は通達*1で、過酷な暑さの中での作業では、20~30分ごとにカップ1~2杯の水分摂取が望まれるとしています。また、発汗により失われた塩分を補給するため、水1ℓあたり1~2gの塩分摂取も必要です。
特に高年齢者は、暑さを感じにくくのどの渇きをあまり訴えないため、熱中症発生率も高く心配されます。作業員の自主性に任せず、水分・塩分摂取量の管理が必要となります。
*1 :厚生労働省基発0420第3号「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について」
■ 「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」に基づく対策
厚生労働省等が主唱する本キャンペーンでは、職場における熱中症対策の実施事項等が詳細に示されています。ウェアラブルデバイスの導入、アイススラリー(流動性の氷状飲料)の摂取、熱中症予防動画教材(厚生労働省提供)の活用等の対策が盛り込まれています。
■ 1人で休憩させない
調子が悪くなり休憩するも容態が急変し、救急搬送したが手遅れであったケースが数多く見受けられます。これは体温調節力の低下により、熱をうまく放出できず容態が悪化したものです。
休憩中は1人にせず、誰かが付き添い症状の改善を確認しなければなりません。環境省の「熱中症環境保健マニュアル2022」を参考に、熱中症の疑いがある場合の応急処置を確認しておきましょう。
高木 元也 (たかぎ もとや)
独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域特任研究員 博士(工学)
名古屋工業大学卒。総合建設会社にて施工管理(本四架橋、シンガポール地下鉄等)等を経て現職。現在、建設業労働災害防止協会「建設業における高年齢就労者の労働災害防止対策のあり方検討委員会」委員長等就任。
[主な著作等]NHKクローズアップ現代+(あなたはいつまで働きますか?~多発するシニアの労災他)、小冊子「現場のみんなで取り組む外国人労働者の災害対策・安全教育」(清文社)他。
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