日本経済の動向
BRICSとの連携強化を模索するASEAN各国
新興国9か国で構成されているBRICSに今夏、ASEAN(東南アジア諸国連合)のマレーシア、タイが加盟を申請し、さらに、これまで加盟には消極的であったインドネシアが2024年10月に加盟希望を表明した。そこで今回は、これらのASEAN主要国の動向と、BRICS各国との貿易面での関係性について解説する。
インドネシアがBRICS加盟に方針転換
ASEANではBRICSをはじめとして、新興・途上国との連携を強化する動きが活発化している。
インドネシアでは、プラボウォ新政権が10月20日に発足し、新興国としてのリーダーシップを重視し、外交面での発言力強化に力を入れる姿が浮き彫りになっている。BRICS首脳会議では、BRICSの拡大に向け「パートナー国」制度の創設が決まり、インドネシアは13か国の候補の中に入っているとされる。加えて、同国のスギオノ外相は、BRICSの正式なメンバー国として加盟申請を行う方針を示した。これまでインドネシアは、ロシアや中国との距離感への配慮もあり、BRICS加盟には慎重姿勢で、OECD(経済協力開発機構)やTPP(環太平洋パートナーシップ)への加盟を優先させる方向であったが、方針転換した格好となった。
BRICSとASEAN各国との貿易は拡大
BRICSは人口や経済規模の観点から重要度を年々増しており、インドネシア、タイ、マレーシアは、それぞれBRICS各国との貿易(注)を、近年拡大させている(図表)。2019年から23年までの輸出入変化をみると、インドネシアでは、G7向けの輸出が14%増と拡大しているものの、BRICS向けの輸出は倍増している。輸入も同様に、BRICSからの増加額がG7からよりも上回っているが、BRICSとの貿易収支は、23年は輸出の急増に支えられ黒字に転じている。結果、輸出の4割弱を支えるBRICS向けが外需を支える構造となっている。
一方タイでは、輸出の3割~4割程度を占めるG7向けが、19年から23年までで20%超伸びているものの、部品などを含めた中国などBRICSからの輸入が急増し、BRICSとの貿易収支は大幅な赤字となっている。輸出力の強化が課題となっていることから、BRICSに24年1月から加盟した中東・アフリカ市場も含め、新興国との貿易面での結びつきが、政策上、重要度を増している。
またマレーシアは、タイと同様に中国をはじめとするBRICSからの輸入が増加し、貿易赤字が拡大中だ。さらに、エネルギー輸入の拡大も貿易赤字拡大の要因の一つとなっている。マレーシアではサウジアラビア、ロシアからのエネルギー資源の輸入が増加しており、輸入額は19年対比で、それぞれ2.3倍、2.1倍と大幅に伸びている。マレーシアの場合は、G7向けの全輸出に占める割合が20%程度と、タイと比較して大きくないこともあり、BRICSが輸出と輸入の両面から重要であり、BRICSとの関係強化は積年の課題となっている。
- (注)本稿では、BRICSの内訳に、加盟要件は満たしたものの、正式には未加盟とされているサウジアラビアを加えて貿易を分析している。
政策面でも新興国内で関係強化の機運
またBRICSでは、食料やエネルギーの安全保障、貧困問題の解決を掲げており、これらは新興国共通の課題となっている。タイやインドネシアはBRICSの掲げる方針が自国の目標と重なっていると評価しており、それらの課題に向けた取り組みでのリーダーシップを確保したいという狙いも透けて見える。他方で、国際的な観点からは、経済のブロック化は貿易や投資全体の縮小を招き、世界経済全体の成長を引き下げる方向に作用することもある。日本としても、ASEANとBRICSの連携などの国際情勢を分析しながら、過度なブロック化を未然に防止する視点が必要となる。TPPやIPEF(インド太平洋経済枠組み)に加え、ADB(アジア開発銀行)など、多層的な国際協力の枠組みの場での議論の積み重ねを、これまで以上に活用する必要性が増していると考えられる。
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