建設経済の動向

建設経済の動向
2024年12月・2025年1月号 No.564

新卒採用、建設会社の6割が計画満たさず

日経クロステック 建設編集長 佐々木大輔

2024年4月に建設業でも始まった時間外労働の上限規制。人手不足が深刻化する中、打開策として初任給引き上げや、賃上げに取り組む動きが目立つ。建設会社の新卒・中途の採用状況について、デジタル技術メディアの「日経クロステック」が独自調査した結果を伝える。

建設業界で人材獲得競争が激化している。背景にあるのは、2024年4月に建設業でも始まった時間外労働の上限規制。いわゆる建設業の「2024年問題」だ。慢性的な人手不足に拍車をかけ、人件費の上昇を招くなど経営のリスク要因になっている。

日経クロステックは、全国の主要な建設会社を対象に、2024年問題への対応や採用状況などを確認する調査を、上限規制開始後の2024年6月から7月にかけて実施した。経営事項審査の完成工事高が一定額以上の企業にアンケートを送付し、183社から回答を得た。

アンケート調査ではまず、土木現場の上限規制の達成状況を尋ねた。設問に回答した174社のうち「達成済み」と答えた企業は32%にとどまり、63%が「2024年度に達成する見込み」と答えた。「2024年度に達成できない見込み」も5%あった。土木売上高が100億円以上の規模の大きな会社ほど、対応が遅れていた。

建設会社は人材確保に力を入れるが、調査からは思うようには進んでいない状況が浮かび上がる。2024年4月入社の新卒採用状況について尋ねたところ、回答企業全体では62%が「予定数に満たなかった」と回答した。規模別に見ると、土木売上高が100億円以上では67%、同100億円未満では58%に上った。

人手不足の打開策として目立つのが、初任給を引き上げる動きだ。2024年4月入社の新卒初任給に関する設問では、土木売上高100億円以上の会社の85%が前年度より引き上げたと回答した。同100億円未満でも増やした割合は74%に上った。2025年4月入社の新卒初任給の見込みは、2024年4月に比べて伸びが鈍化するものの、金額引き上げの動きは継続している。

社員の受け取る基本給を増やす動きも目立つ。2024年度見込みを尋ねたところ、土木売上高が100億円以上の会社は全社が増加の見込みと回答。同100億円未満の会社でも9割超が増加の見込みと回答した。

 

中途採用は5割弱が計画満たさず
転職人材の採用基準緩和も

人手不足の解消は新卒採用だけでは追いつかず、中途・キャリア採用の動きが活発になっている。中途で予定通りの人数を採用できたかを尋ねた設問では、5割弱の企業が「予定数に満たなかった」と回答した。中途の方が新卒に比べて、予定採用人数を確保できている割合が大きいが、厳しい採用環境が続く。こうした状況下で転職市場は活発で、施工管理など建設業の求人数は高水準を維持している。流出する人材を補うために、転職人材の採用基準を緩和する会社も出てきた。

2024年問題を契機に働き方改革を進めて労働環境を改善できるかどうかが、人材獲得競争を勝ち抜く鍵となりそうだ。

新卒採用の状況。2024年の新卒採用で予定通りの人数を採用できたかどうかを尋ねた。土木売上高が100億円以上とそれ未満の会社に分けて集計(出所:日経クロステック)

初任給の増減。2023年4月、2024年4月の新卒採用の初任給と2025年4月の同見込みを各社に聞き、前年と比べて増加、減少、横ばいの会社の割合を日経クロステックが算出。土木売上高が100億円以上とそれ未満に分けて掲載した(出所:日経クロステック)

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