連載

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2022年9月 No.541

丁寧な塗装を生み出す きめ細かな段取り

丁寧な塗装を生み出す きめ細かな段取り

コンクリートが打ちっぱなしのマンション建設現場で、次の作業手順を真剣に確認する女性がいた。建物の塗装を行う株式会社マナベの取締役、松尾晶子さんだ。2児の母でありながら会社経営に携わり、さらに現場では塗装職人の作業が円滑に進むように段取りを進めるなど、幅広いフィールドでエネルギッシュに活躍する女性である。

松尾さんが働くマナベは、祖父が興した会社だ。幼い頃に現場に連れていかれ、祖父、父、そして母の仕事ぶりを間近で見てきた松尾さん。しかし大学を出て就職したのは、建設業とはかけ離れた「製薬会社」だった。「中学生の時に父を病気で亡くして、病で苦しむ人を助けられる製薬業界に興味を持ちました。製薬会社では営業として4年ほど働き、売上げ日本一にもなりました。やりきった、と感じて、今後の身の振り方を考えた時に、実家の塗装業を手伝いたいと思ったんです」。この頃会社を切り盛りしていた10歳上のお姉さんからはいろいろと相談を受けていて、実家のことはずっと気になっていたそう。

しかし、いざ塗装業を継ぐといっても簡単な話ではない。自身に塗装職人としての技術があるわけでもなく、20代半ばの若さでベテランの職人やお客さまと渡り合うには武器が必要だ。そのために挑戦したのが、難関資格である「1級建築施工管理技士」の取得だ。「資格を取ってから、お客さまとの打合せなどの機会で説得力が増したように思います」。営業で培ったコミュニケーション力と資格を武器に、お客さまの信頼を積み重ねている。

現在では、会社経営に携わりながら、現場の施工管理担当として塗装職人の作業の準備や仕上がりのチェックを担当している。「資材の準備も重要ですが、同じくらい重要なのが情報です。『隣に駐車場があるから、風で塗料が飛ばないように』、『この現場は7時以降には音を出さないように』など、必要な情報は事前に伝えていますし、現場の地図などは職人さんとLINEで共有しています。やり取りを工夫しながら、職人さんが存分に働けるよう環境を整えて、お客さまにも喜んでいただけるような仕事をしていきたいです」。

そんな松尾さんが最近力を入れているのが「日本建築仕上学会 女性ネットワークの会」の活動だ。「この業界で働くさまざまな分野の女性が集まる会です。参加してみて、自分と同じように頑張っている女性がこんなにいるんだ、と気づかされました。今では悩みを相談したり、互いの業界情報を共有したりと、心強い仲間です」。同会ではいろいろなイベントに参加したり、学生向けの出前授業では塗装作業体験を行うなど、多彩な活動を展開している。その活動を通じて思うことがある。「この業界はどうしても休日が曖昧で。しっかり休める環境を作ることが、女性や若者に入職してもらうために大事だと思っています。職業を選ぶ時の選択肢として挙がるような業界になったらいいですね」と語る松尾さん。その瞳は、建設業の次なる未来を見つめている。

 日本建築仕上学会女性ネットワークの会 
https://finex-womens-nw.jimdofree.com/

 

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