連載

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2022年4月 No.537

緑豊かな癒やしの空間を、この手で。大切な樹々を保全・継承する造園のプロ。

緑豊かな癒やしの空間を、この手で。大切な樹々を保全・継承する造園のプロ。

季節の訪れを待つモミジバフウの街路樹。その美しい樹形を維持する剪定作業の現場で巧みに指揮をとるのは、株式会社富士植木の中川京子さんだ。「年間で40〜50件ほどの現場に携わっています。街路樹のメンテナンス、企業や施設の外構改修、集合住宅の植栽管理、お庭の改修プランづくりなど、こなすべき役割も様々です」と語り、多岐にわたる仕事ぶりを伺わせる。「最近携わった中で印象深いのは、年月を経た希少な樹種が多く植栽された施設の改修工事です。大きく育った樹木の保全・継承というお客様のご要望に応えるため、一度富士植木の圃場(ほじょう)に運んで移植し、1年間大切にお預かりした後、工事の際に再び現場に移植するという手法を取りました。この現場では設計段階から携わり、関係者の方々と打合せを重ねてようやくお客様のご要望に応えられたので、非常に大きな達成感を味わえました。一筋縄ではいかない現場も多々ありますが、お客様から“お任せしてよかった”という言葉をいただくと、やはり嬉しいですね」と笑顔を見せる。

「高校生の頃、落ち込んだ時に公園に行くとすごく癒やされました」。こんな緑豊かな空間を自分の手で作れたら…という思いから、造園の道に進んだと話す中川さん。大学で造園の知識を学んだ後に富士植木に入社し、現在まで所属する多摩支店に配属となった。「入社後は先輩と共にひたすら現場に行く毎日でした。常日頃から言われていたのは“わからなくても一度しっかり調べて、自分自身の考えを持ったうえで相談に来なさい”ということ。すぐに聞くという行動も大切ですが、考えを持たずに聞くのはある意味無責任なことなんだと学びました。樹木ひとつをとっても、自身で図鑑を見て覚えるのとすぐ人に聞くのとでは、記憶の定着にも差が出るもの。後輩に対しても、まずは自身の考えを持つことを投げかけています」。そうした積極的な姿勢は、仕事のやりがいにも繋がるという。「入社当初はまだ女性の造園技術者が珍しかったのですが、進んで仕事に取り組むことでどんな現場にも溶け込んでいくことができました。それでも新人の頃は考えが及ばず、お客様にも周りにも大きな迷惑をかけてしまう場面がありました。ただ、そうした経験がさらに身を引き締めるきっかけになりました。自分自身でよく調べ、考え、しっかりと人に伝えること。そのうえで人の話に注意を払い、丁寧に耳を傾けることが結果的にお客様との信頼関係にも繋がります」。

「造園は樹木・植物といった生き物が相手の仕事。一生懸命に頑張れば答えてくれるという大きな魅力があります」と、この仕事の醍醐味を語る中川さん。”現場の方はもちろん、お客様にも厚い信頼を寄せられている頼りになる存在”と、富士植木多摩支店の中澤支店長も太鼓判を推す。積み重ねてきた仕事の先に、新たな造園の未来が広がっている。

 

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