FOCUS

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2021年2月 No.525

「地域との連携なくして、土木教育の未来はない」川でのフィールドワークを通して醸成する「地元愛」

清流五ヶ瀬川をはじめとする豊かな川に囲まれた街、宮崎県延岡市。この地で76年の歴史を刻む宮崎県立延岡工業高等学校では、川をフィールドとした自然学習に力を入れています。川辺での暮らしを守るため、先人たちの知恵を凝らした伝統的な川づくりの工法を実践したり、地域の人と協力して川の環境保護に取り組んだり……。“川づくり”にかける想いとその狙いを、西川和弘先生に伺いました。

川づくりをきっかけに伝統や自然保護の大切さに気付く

西川先生が川をフィールドとした学びを始めたのは、2011年。延岡市に伝わる「なんば引き」という伝統的な杭打ち工法に出会ったことがきっかけだ。「なんば引き」とは、昭和30年代ごろまで全国で取り入れられていた、護岸工事のための伝統工法のこと。課題研究の題材として「なんば引き」による実習を取り入れたのが始まりだった。

こうした活動を行う背景には、同年3月に起きた東日本大震災があった。テレビから映し出される被災地の状況を目にした西川先生は、改めてライフラインの重要性を実感。自分たちも地域を守るためになにかできないかと模索し、地域の川をフィールドとした活動を始めたという。

「古くから伝わる先人の知恵を学び、また五ヶ瀬川水系の自然を守る活動ができると考え、家田川えだがわという河川に『なんば引き』の工法でやぐらを設置しました。家田川は、もともと蛍の再生に力を注いでいた場所。地域の保存会の協力を得て、立てたやぐらの周りに稲や小石を集めるなど、蛍が生息しやすい自然環境づくりに取り組みました。この活動を通して、地域の人や自然と関わり、教科書だけでは知ることのできない学びを体験してほしいと考えていました」

その活動が宮崎県延岡土木事務所や延岡市建設業協会の目に留まり、「川づくりに高校生のアイデアを取り入れたい」と相談が舞い込んだ。地域と関わる絶好のチャンスと捉え、産学官が連携した川づくりプロジェクトがスタートした。

「相談内容は、延岡の中心部近くを流れる祝子川ほうりがわの自然環境をどうすれば保全できるか一緒に考えてほしいというものでした。生徒たちは実際の現場に赴き、絶滅危惧種も多く生息する祝子川の植物や生物を守る方法を模索しました。生徒たちは、作業服を着て、実際に体を動かす実習が楽しかったのか、いままでみたことがないくらい目が輝いていたのを覚えています」

調査の末、生徒たちから出たアイデアは、川底に捨て石を置き、その間から根を生やす植物を植える事で、生き物が住みやすい自然環境をつくれないかというものだった。

「周囲に自生していた、強い流れにも耐える強靭な根を持つネコヤナギという植物に着目し、実際に捨て石の間に植栽を実施。しばらく観察を続けると、水中根にはウナギやウグイ、ラクマエビなど多くの生物の生息が確認できました。自分たちのアイデアによって自然環境が復活した光景を目にした時は、生徒たちもとても感動していましたね。1番の思い出は、生徒たちの活動によって帰ってきた魚をみんなで獲って食べたことです。食べる事で自然のありがたみを身をもって実感した貴重な体験になったと思います」

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