FOCUS

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2020年10月号 No.522

教師も戸惑う困難さを極めた卒業制作 学んだのは困難な状況に立ち向かう姿勢

1896年、仙台市徒弟実業学校として歴史を刻み始めた仙台市立仙台工業高等学校。同校では「ものづくり立国、日本を支えるエンジニアの育成」を使命に、キャリア教育や資格取得の推進などに力を入れています。こういった教育活動で培った「困難を乗り越える力」を活かし取り組んだのが、2019年の卒業制作。絶滅危惧種であるサイをモチーフにしたモニュメントを制作し、同市施設に寄贈した。活動内容と目指すところを、土木科の櫻井慎先生に伺いました。

 

諦めではなく打開策を模索困難にぶつかった生徒の選択

仙台市にある八木山動物公園に展示されている、モルタル製の「サイ」のモニュメント。これは、同校土木科の生徒による卒業制作だ。サイのモニュメント作成をしたきっかけは、仙台市の施設とコラボレーションできないかと同市関連施設のホームページを見ていたときに「世界サイの日」という記事を見つけたことだった。絶滅の危機にあるクロサイ保護のために、できることはないかと考えたのだ。

「最初はサイの色がコンクリートと同じだったことから発想しました。以前、先輩たちがアートモルタルを使用した課題研究をしていたこともあり、『サイの像をつくれないですか』と生徒からアイデアが出てきました。オリンピックイヤーでもあるし、聖火台をつくり、命の灯を絶やさないようにしようというメッセージを込めた募金箱も添えることにしました」

学校側から八木山動物公園に企画を持ち込んで始まった「サイを救おうキャンペーン」だったが、制作期間がとにかく短かった。1週間経っても試作がうまくいかないことに、生徒たちも先生も焦りを感じた。

「全部をコンクリートでつくると重くなる。そこで硬い発泡スチロールで形をつくり、その上にコンクリートを塗ろうと考えました。しかしこれがうまくいかないんです。一向に状況が進まない様子を見た他の先生から、『諦めてお詫びの連絡をしたほうがいいのでは』と言われたほどです。しかし生徒たちはここで諦めるのではなく、コンクリートを乗せられる土台がどうにかつくれないかと必死で考えました」

最終的には、ペーパークラフトでつくったサイの中に発泡ウレタンを流し込み、その上からコンクリートを塗る方法にたどり着いた。

「想像以上にうまくいきました。時間があったら発泡スチロールでつくり続けたかもしれませんが、完成度を突き詰められたかは疑問です。もうだめだという状況を、何とかしようと模索することで、成功に転じることは多い。今回、生徒もそのことを実感できたのではないかと思います」

また、制作を進める中でサイは密猟が進み、絶滅に瀕していることを生徒たちは学んだ。

「サイの密猟で得たお金が世界各地の暴動の資金源になっていることを知り、『サイを救うことが世界を救うことになる』と、思い入れが強くなったようです。作業の熱も増し、一生懸命に線を引き入れ皴を表現するなど本当にリアルないい仕上がりとなりました」

 

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