FOCUS

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2017年6月号 No.489

若手を育て、新技術を取り込み、建設の未来に新たな道を拓く!

2016年、群馬県沼田市に開校した利根沼田テクノアカデミー。初年度は板金と瓦の2コースによる、3か月間の短期実践コースでスタートを切りました。翌2017年度は大工と水道設備の2コースを新設し、さらに5月には話題のドローン技能訓練校も開校するなど、群馬県内における若手の建設技術者育成を積極的に進めています。今回は、2009年から自社内に職業訓練学校を設けるなど人材育成に取り組み続け、アカデミー設立の中心となった校長の桑原敏彦さんに、技術者育成への思いや目標などを伺ってみました。

小学校跡を利用して技術者育成施設を設立


桑原 敏彦 校長

利根沼田テクノアカデミー(以下、アカデミー)は、板金業の株式会社テクノアウターが自主的に運営していた板金技能訓練センターが前身です。すでに建設業界では若手の人材不足が深刻な問題となりつつあり、同社を経営する桑原さんが、「このまま待っていても人は来ない。自分たちで育てる必要がある」と考え、職業訓練指導員資格を持つ父親と一緒に始めたのがこの訓練センターでした。
「小さな会社が単独でできることには限りがあります。そこで板金だけでなく、各分野の技能訓練ができる学校が作れないかと考えて、国土交通省の方に、廃校になった地域の小学校の校舎を無償で貸していただけないか相談しました。それがきっかけで行政や業界のいろいろな方が視察に来られ、手を貸してくださることになったのです」。
廃校の設備を利用することで、「廃校で町おこし」として地方創生補助金の対象事業となることもわかり、国土交通省や厚生労働省、建設業振興基金、群馬県、沼田市、群馬県建設業協会、沼田商工会議所、全国建設業協同組合連合会など、多くの機関や団体の支援を受けながら、2016年4月に板金と瓦の2コースで開校。約3か月間の短期実践研修を経て、6月末に第1期・24名の卒業生を送り出しました。

「職業人として一人前」を育てる独自の教育

アカデミーには、沼田市内を始め各地の建設会社や工務店などから、若手社員が研修生としてやってきます。2016年11月には群馬県の認定訓練校に指定されるなど、評判を聞いた多くの建設関連企業から問い合わせがあり、2017年度の2期目は、指導コースを倍の4コースに増やしました。
アカデミーの特色は、一人前の職業人として将来にわたって仕事ができるよう、建築の技術だけでなく社会人としてのマナーやビジネスの常識も含めて指導する教育方針です。このため研修期間中は、休日を除いてアカデミー内の宿舎で寝泊まりし、先生や先輩、同期生との集団生活を体験。さまざまな人とのコミュニケーションや気配りなどを学びます。

生徒は校舎内で寮生活。各室の壁には人型の絵が貼られ、白いスペースには入室している生徒たちの名前を記入するようになっている。

それぞれのコースにわかれ、真剣に実習に取り組む。

大工技能コースでの制作物。実習中さまざまな制作物をつくり基礎を覚えていく。

中でもひときわユニークなのは、毎朝8時半からの「挨拶訓練」です。一日の始まりに研修生全員がグラウンドに整列し、「現場心得30箇条」を読み上げます。この「30箇条」は研修終了までに暗記が義務付けられており、先生から指名された場合は、すぐに条文を暗唱できなくてはなりません。
「内容を理解するのはもちろん、暗記する努力の繰り返しや、指名されて正確に答えられた時の自信や達成感を経験することで、技術者には欠かせない克己心や忍耐力、困難な課題に挑戦する意思が育ってきます」。

朝礼で必ず復唱する挨拶訓練と現場心得30箇条。実習が終わるころには生徒たちはすべて覚えるという。

ドローンは業界の環境変化に打ち勝つ布石

アカデミーの目下の話題は、この2017年5月末に開校したばかりのドローン技能訓練校です。国土交通省が提唱する「i-Construction」などを追い風に、建設分野でのドローン活用は急速に進んでいます。おのずと今回の訓練校にも注目が集まり、第1回の訓練は受講申し込み開始とほぼ同時に定員いっぱいとなりました。
しかし、アカデミーがいち早くドローン訓練に着手した理由は、新しい技術への関心だけでなく、近い将来にやってくる業界の環境変化への備えだったと、桑原さんは明かします。
「オリンピック特需が終わる2020年以降、新規の建設案件は急激に減って、リフォーム中心になり、人手も減る一方です。そこで今からドローン活用の技術を研究しておけば、職人がいなくても空から屋根や建物の状態を正確に、しかも迅速に見られるため、仕事の品質を保ちながら大いに省力化できると考えたのです」。
若手人口の減少は日本の現実である以上、これから必要な人数を育成しようとしてもかなわないのは見えています。そこを新しい技術や機器で補ってゆく方法を、今から準備しておかなくては間に合わないと、桑原さんは危機感をもって語ります。

ドローンはお客様の信用もアップ

屋根や建物の状態を簡単に撮影できるドローンは、省力化だけでなく施主からの信頼度アップにもつながる。
撮影した映像を見てどんな状況になっているかがわかれば、見積もりや処置が妥当なものだと納得してもらえて、仕事がスムーズに進むからだ。

釘20本をどのくらいの時間で打てるかを測るくぎ打ち訓練。

現場に入ると高所作業もある。高所での歩行訓練は大事な訓練。

「技術開発&人材育成」で業界の未来をひらく

労働人口や新規建設案件の減少など、厳しさを増す建設業界。その活路を開く試みが、集合教育による若手技術者の育成や、ドローンなどの新技術による省力化の取り組みだと語る桑原さん。実はそうしたビジネス創出の一環として、新技術開発にも取り組んでいると明かします。
その1つが「沼田オフグリッド」と呼ばれる蓄電システムです。これは太陽光パネルで発電した電気を自動車用の再生バッテリーにためて、電灯などの電源として使えるシンプルで省コストな仕組みです。
「アジアなどから来た研修生がせっかく勉強して帰っても、母国では建築の仕事が少ない。そこで、何か商売ができるようにしてあげたいと考えて作ったのがこの装置なのです」。
海外では送電事情の悪さから着実に需要を伸ばし、この5月にはフィリピンの政府高官が視察に訪れたほどの注目を集めています。

沼田オフグリッド

「近い将来、仕事が少なくなってきても価格叩きに陥ることなく、みんなで活路をひらいていけるように、今から新しい技術を開発し人を育てていきたい」と抱負を語る桑原さん。利根沼田テクノアカデミーの、未来に向けたチャレンジは続いていきます。

一般社団法人 利根沼田テクノアカデミー ホームページ http://www.t-academy.jp/

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