FOCUS
家づくりから人づくりへ。地域とつながり、建築を通して育む確かな力!
伝統と挑戦が交わる
アーチ製作
毎年9月の学校祭を彩る“校門アーチ”の製作は、前身となる高校から70年以上にわたって受け継がれている、同校の建築科を象徴する伝統行事だ。
「実際にアーチを製作するのは3年生なのですが、構想は1年生の終わり頃から始まります。どんなテーマにするか、どんな構造にするかを2年生の間に検討・設計しながら、3年生で一気に形にしていく。いわば複数年にまたがる学習のスパイラルで、私たち教員側のプレッシャーも相当なものです(笑)」。
この取り組みは、デザイン力や施工技術を磨くだけでなく、仲間との信頼関係も育む機会となる。
「部活動や資格勉強と並行しながら周りと進めていく調整力やコミュニケーション力、協調性が大切になるほか、製作自体は短期間で取り組む必要があるため、設計・加工・組み立てすべてにおいて高い集中力が求められます。生徒たちも“協力しないとできない”という現実に直面するわけですが、苦労して完成させた時の達成感は何物にも代えがたいものがあります。そうしたチームとしての学びが、この活動の一番の醍醐味かもしれません」。
校門アーチの製作は、ものづくりに関心の薄かった生徒の心にも大きな変化をもたらしたそうだ。
「入学当初は建築に興味を示さず“普通科に行きたかった”と言っていた生徒がいたのですが、アーチ製作などを通じて次第にものづくりに惹かれるようになり、面談した際には“先生と同じ大学に行って木造建築を学びたい”と言ってくれるようになりました。その生徒は実際に私と同じ大学に進学し、今では大手ゼネコンで構造計算の仕事に携わっています。そうした影響を与えられたことはもちろん、生徒自身が明確な進路を見つけられたことが、本当に嬉しかったですね」。
無限の“可能性”に
手を伸ばしてほしい!
大学では木造建築を学び、ハウスメーカーにて設計職として勤務した経験を持つ谷川先生。
「同窓会を機に、お世話になった先生から“建築を教えてみないか”と声をかけていただいたことが教員になるきっかけでした。ちょうど配属が変わったタイミングとも重なり、“家づくりから人づくり”にシフトすることを決めました」。
教員に転身後は、自身の経験を通じて建築の面白さや奥深さを伝えている。
「民間企業に勤めていたころは多くの失敗を経験しましたが、そうしたことも積極的に話すようにしています。高校は、社会に出る前にたくさん失敗できる場所。だからこそ生徒にも、目標に向かって果敢に挑戦し、失敗から学ぶ機会を大切にしてほしいです」。
ボート部の顧問としての顔も持つ谷川先生。建築とボート──2つには、意外な共通点もある。
「ボートは、進行方向の逆を向きながらオールを漕いで進む競技。つまり、ゴールが見えない状況で、仲間を信じて息を合わせて競うスポーツです。建築も、最初から完成形が見えているわけではありません。みんなで形にしていく中で、少しずつゴールが見えてくる。周りを信頼し、協力しながら進むという点では共通するものがありますね」。
生徒には“可能性”に手を伸ばしてほしいとエールを送る。
「生徒にはそれぞれに無限の“可能性”が広がっています。ただし、その可能性は、ただ待っているだけではつかめないもの。目標を明確にして、まずは手を伸ばしてみること。その背中を押すことが、私たち教員の役目だと思っています!」。
10年以上にわたって『ままごとハウス』という木製遊具を地域の保育所や幼稚園に届ける活動を行っている建築科。「在来軸組工法で作り込むため、生徒にとっても大きな学びになる取り組みです。素材には間伐材を使っており、時代に沿ったサステナブルな側面もあります」。遊具を手渡す瞬間は、園児や保育士からの“ありがとう”の声が直接届き、生徒にとってものづくりの本質を感じる機会となっている。
地域課題である空き家の利活用を目的に、宮津青年会議所と連携して取り組んだプロジェクト『天橋立空き店舗リノベーション』。生徒たちは専門業者とディスカッションを重ね、地域資源である竹材やカキ殻なども活用しながら、環境に配慮したカフェ空間の設計に挑戦。実践的なものづくりを経験する中で、“地域と建築をつなぐ”ことの意義を学ぶと同時に、地元への愛着や建築の社会的役割への理解を深めた。
宮津市庁舎 谷川先生が選んだのは、京都府北部を代表する近代モダニズム建築として評価される宮津市庁舎。設計者は建築家・丹下健三氏に師事し、芝浦工業大学大宮図書館などを手がけた京丹後市出身の沖種郎(おきたねお)氏です。「打放しの鉄筋コンクリートの外観が印象的な、地域を代表する建物です。現在は老朽化が進んで使われていない部分もありますが、川沿いに立つ姿も非常に魅力的です」。 |
京都府立宮津天橋高等学校
〒626-0034 京都府宮津市字滝馬23番地
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