FOCUS

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2018年3月号 No.496

若い土木技術者を地域ぐるみで育てる!

「山形県の産業発展を支える人材育成」を目標に、幅広い分野の「ものづくり」に係る技術教育を展開してきた山形県立産業技術短期大学校(以下、産技短)。同校に2017年4月、公共職業訓練における土木系の高度専門課程としては全国初の「土木エンジニアリング科」が誕生しました。「君が山形を創るんだ!」をスローガンに県内の自治体および企業との連携のもと、郷土に貢献する土木技術者を育てたいと意気込む同学科を紹介いたします。

山形の土木技術を担う若手人材の育成が急務

平成5年の開校以来、2,000人以上の卒業生を送り出してきた産技短。新たに「土木エンジニアリング科」が創設された背景について校長の尾形健明氏は「高速道路など県内の社会資本整備は、まだまだ発展途上にあります。加えて、道路や構造物などインフラの老朽化対策や自然災害への対応など土木技術者に対するニーズは高まる一方です。建設業界の高齢化が進み、若手技術者が不足する中、積極的に次の世代を担う人材を育てようとの狙いがありました」と振り返ります。
建設業界からの強い要請を受けた山形県では、「土木エンジニアリング科基本構想検討委員会」を設置。平成27年5月の第1回会合以降、山形県建設業協会や県内の各企業と力を合わせて新学科創設の準備を進めていきました。
「新学科の創設に当たっては、吉村知事の指示の下、県当局の力強い取組みと建設業界の後押しがありました。その背景には、県内における土木技術者の担い手不足に対する危機感と東日本大震災の被害を目の当たりにして、東北の復興のためにも土木技術者育成が急務だとの強い決意があったのです」。


山形県立産業技術短期大学校
校長 尾形 健明氏

ICTなど新分野でも地域の期待に応える

産技短の大きな特色の一つに、県を挙げての産官学連携によるバックアップがあります。同校の支援団体である「教育研究振興会」には、県内の有力企業およそ250社が参加。毎年の合同企業説明会など卒業生の就職希望に応えるための環境が整備されています。なお、教育研究振興会には建設系企業も新たに約50社が加わっており、土木エンジニアリング科の創設以来、多くの支援を受けてきたと尾形校長は語ります。
「これまで山形県には東北の中で唯一、土木分野の高度人材を養成する学校や職業訓練施設がありませんでした。そうした意味でも、行政を含む県内の建設産業界の期待にしっかりと応えていく責任を感じています」。
同科の訓練時間は2年間で2800時間。限られた期間で建設業界や国土交通省、県からの支援をいただきながら実践技術者の育成を目指しています。土木工学の基礎のほか、山形県の地域特性に関する知識や国が提唱しているi-Constructionにも対応した人材を輩出するため、3D CADやUAV測量など最新のICTを活用した土木技術の習得にも力をいれています。
また実際の現場での仕事を学ぶためのインターンシップにも力を入れています。昨年11月には企業実習を実施し、さらに2年の進級時は就職に向けた企業実習も予定されています。

3D CAD実習では一人一台を用意。

完成した専用の実習棟。4月から使用を開始する。

将来は現場監督として「ものづくり」を!

土木エンジニアリング科の第1期生は21名。工業系高校と普通科系高校出身者の比率がほぼ半々という点からも、職能を身につけたいと考えている生徒の関心の高さがうかがえます。またほとんどは県内出身ですが、県外から入学した生徒も。菊池果歩さんは青森県青森市出身。「高校の時に東日本大震災の被災地に行く機会があり、復興に貢献するためにも将来は土木関係に進みたいと考えました。しかし地元周辺には土木専攻の学科を持つ大学が少なく、探していたところ、この大学校を見つけ、県立でカリキュラムや組織もしっかりしているので決めました。将来は現場でものづくりの過程をまとめていく現場監督になりたいと思っています。」


菊池 果歩さん

高橋直也さんは山形県村山市出身。「以前から立体の構造物を見るのが好きで、将来そういう仕事に就きたいと考えていたところ、高校の先生から土木エンジニアリング科が新設されると聞いて決めました。普通科高校だったので、土木の勉強はゼロからのスタートでしたが、先生もとても優しく丁寧に指導してくれますし、実習が多いので自分の手で実際に体験しながら覚えていけます。将来は現場監督になって、トンネルや道路を自分で作ってみたいですね。」


高橋 直也さん

南陽市から通う水沼将吾さんは「高校時代から土木に興味を持っていたのですが、2年生のときに部活動で東日本大震災の被災地に行く機会がありました。この時に現地の壊れた建物や構造物を目の当たりにして、自分も復興に貢献できるようなものづくりをしたいと考えたのが、この学科を選んだ理由です。授業は実習が多いので、実際に作業しながら学べるのが楽しいです。将来は山形を中心に、道路や街をよりよくする仕事を手がけたいですね」とそれぞれしっかりした目標を見据えています。


水沼 将吾さん

「学生たちのチームワークはとても良い」と尾形校長。普通科高校と工業高校出身の生徒が、お互いに得意な科目を教え合うなどの姿も見られるそうです。
「同科の知名度はまだまだこれからです。第1期生を県内の企業に受け入れてもらい、土木エンジニアリング科の卒業生であることをどんどん広めていって欲しい」(尾形校長)。これからの山形県の建設を担う新たな人材の輩出に大きな期待が込められています。

実習前の授業風景

施工管理実習の様子

 

Column 担い手確保には地道な活動を続けることから


一般社団法人山形県建設業協会 専務理事兼事務局長
佐原 伸児 

土木エンジニアリング科の創設は、建設業界の要請と山形県知事の思いが重なって実現したもので、基本構想検討委員会への参加に始まり、その後支援検討会で連携・支援について検討を行ったほか、オープンキャンパスの協力など山形県建設業協会も大いに協力させていただきました。ここまで取り組む理由には、やはり土木分野での深刻な人材不足です。高齢化・少子化が進む中で、地域社会や企業が人材を育てる仕組みが求められていると考えます。その中で、同科で学んでいる学生たちが口々に「現場監督を目指す」と語ってくれており、大いに勇気づけられました。担い手の確保は継続して地道に活動していくことが重要。他県でも人材不足が問題視されていますが、まず「動かなければ始まらない」そう思っています。

 

山形県立産業技術短期大学校ホームページ http://www.yamagata-cit.ac.jp/

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