特集

特集
2021年12月・2022年1月 No.534

新たな時代の転換期に見る 建設業の課題と展望

あらゆる産業に影響を及ぼしたコロナ禍を契機に、さらなる加速を見せる働き方改革やDXへの取り組み。新たな時代の転換期を迎えた建設業の現状と課題、未来について、2021年7月1日に国土交通省 不動産・建設経済局長に就任した長橋和久局長にお話を伺いました。

 

■ 国土交通省 不動産・建設経済局長
  長橋 和久 氏………………………………(以下、長橋)

■ 一般財団法人 建設業振興基金 理事長
  佐々木 基………………………………(以下、佐々木)

 

10年で変貌した建設業。働き方には大きな課題も。

佐々木 : 建設業振興基金が発行している「建設業しんこう」は、各建設業協会や関係団体の方などにもご覧いただいているのですが、毎年の局長との対談は特にご好評をいただいています。局長の考えを伺える貴重な機会ですので、ぜひともいろいろなお話をお聞きできればと思います。

さて、局長は2011年に国土交通省の入札制度企画指導室長を務めておられます。当時は東日本大震災の影響も色濃く、建設業界も厳しい状況だったと思いますが、今回局長に就任されて建設業界の変化についてはどのように感じていますか?

長橋 :  はい、私はちょうど震災直後に入企室長となりましたが、今振り返ってみても当時は大変に厳しい状況でした。建設投資額は約42兆円と、1992年度の約84兆円からすでに半分に落ちており、労務単価も全国全職種平均値は1万3千円程度というところ。そうした中で東日本大震災が起こり、今後の展望が見えない困難な局面だったと記憶しています。ただその後10年経ち、投資額で見ると2021年度で約58兆円と1.4倍程度まで回復し、労務単価についても9年連続で上昇を続け、当時と比べて1.5倍程度上がっています。また、厚生労働省が行っている「賃金構造基本統計調査」においても、建設技能者の賃金が16%ほど上がってきており、数字的にはこの10年でかなり改善されたように思います。これは様々な施策の効果もありますが、何よりも業界の努力が反映された結果と言えるのではないでしょうか。ただ一方で、社会全体の大きな変化や長きにわたるデフレの影響に対して、そうした努力が十分には発揮できていない部分もあるように思います。特に「働き方」という面において、若手が根付かない・入職者不足といった問題は、建設業界全体の雇用が社会の変化に追いつけていないことが大きな要因と考えます。担い手の確保・育成は目下の課題であると、改めて感じているところです。

佐々木 : 確かに建設業は、働き方改革の部分で立ち遅れた面があるかもしれません。働き方という点では、特に業界の方が心配しているのは2024年3月で労働時間の上限規制に係る猶予期間が終了するということです。労働時間を是正したら給与も下がってしまった…となっては意味がないので、生産性の向上ともリンクする話だと思いますが、「本当にできるのだろうか?」という不安や懸念の声はかなりあるように感じます。そうした中で、今後建設業の環境整備をどのように進めていくか、また業界に対してはどういったことを期待されているかをお聞かせいただけますか。

長橋 :  まさにそのような懸案事項に対応するべく、法律の面では「新・担い手3法」が施行されました。中央建設業審議会により工期の適正化を図った基準の作成・勧告がされていますし、施工時期の平準化も推進しています。特に自治体に向けてはその見える化に努め、自治体の評価もしながら改善していく取り組みを進めるなど、施策として様々な手を打っているところです。賃金については処遇改善も含めて進めていかねばなりませんし、生産性の向上に向けても技術者の配置を合理化するといったことを制度的に行っていく必要があると考えます。そのような部分は整備しつつも、発注する側の事業全体に掛かるコストの意識を見つめ直さなければならないと感じています。

佐々木 : なるほど。意識転換もそうですし、契約関係、あるいは元下関係、重層下請構造など、今まで当たり前のように考えていたことを見直す時期に来ているのかもしれませんね。

長橋 :  発注者側には、いいものを発注するにはこれだけのコストが掛かる、雇用労働者の働き方まで考えると少なくとも工期はこれくらい確保する、といったことも含めて考えてもらう必要があります。「叩けば安くできる・早くできる」という意識を持たれていては、現状を変えていくのは困難です。そのような認識をどういった形で発注者側に浸透させるかが、我々の大きな課題と見ています。元下間の取引の適正化といったことも含めて取り組む動きもあるので、関係業界に働きかけていきたいと思います。

1 2 3 4

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら