特集

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2026年3月号 No 576

建設産業人材確保・育成推進協議会の取組

特別対談 建設産業が見つめるべき今と未来 ―構造課題と担い手確保をめぐって― 立命館大学 OIC総合研究機構 客員教授 古阪秀三氏 一般財団法人 建設業振興基金 理事長 谷脇暁

建設業振興基金が事務局を務める建設産業人材確保・育成推進協議会(以下「人材協」という。)では、建設産業への入職促進にとどまらず、入職後の人材育成・活用・定着等、幅広い人材対策の総合的な推進を活動目的としております。

人材協の歴史を遡ると、1993年8月に設置され、現在に至るまで30年以上にわたり、若年者の送り出し手である教育業界、受け入れ側である建設産業界、そして行政機関との相互理解を深めるとともに、人材協の場による議論を通して、建設産業界のイメージアップ、現場見学会・現場実習等の具体的な取組がなされ、建設産業の人材対策全般における様々な活動を展開しております。

今回の対談では、1999年から人材協運営委員会委員を務められ、2013年から同委員会の委員長としてご尽力いただきました、立命館大学 OIC総合研究機構 客員教授 古阪 秀三 先生を招き、現在の建設産業の状況や人材協での取組についてお話を伺いました。

【古阪氏 ご経歴】

昭和26(1951)年 兵庫県生まれ
昭和49(1974)年 京都大学工学部建築学科卒業
昭和51(1976)年 清水建設勤務を経て京都大学工学部助手
昭和53(1978)年 建設業構造基本調査 委員(現在の建設業構造実態調査)
昭和62(1987)年 京都大学工学部助教授
平成11(1999)年 建設産業人材確保・育成推進協議会 運営委員会 委員
平成13(2001)年 基幹技能者評価・活用等委員会 委員長
平成14(2002)年 基幹技能者周知・活用等分科会 委員長
平成25(2013)年 建設産業人材確保・育成推進協議会 運営委員会 委員長
平成25(2013)年 作文コンクール(社会人・高校生)優秀作選考委員
平成26(2014)年 建設産業担い手確保・育成コンソーシアム企画運営会議 アドバイザー
平成27(2015)年 京都大学大学院工学研究科教授
平成28(2016)年 優秀施工者国土交通大臣顕彰 審査委員
平成29(2017)年 立命館大学 OIC総合研究機構 客員教授
平成29(2017)年 プログラム・教材等ワーキンググループ 委員
令和4 (2022)年 建設人材育成優良企業表彰(創設)選考委員

 

「現場の違和感」から始まった建設産業行政との接点

谷脇:本日は、古阪先生が建設産業行政とどのように関わってこられたのか、そして人材協の取組を振り返りながら、これからの建設産業のありようについても伺えればと思います。まず、先生はいつ頃から建設省(当時)・国土交通省の建設産業行政と関わりができたのでしょうか?

古阪:入口としては、建設省の建築研究所におられた古川修先生とのご縁が大きかったですね。ただ、話はもう少し前に遡ります。僕は大学時代、恩師の巽和夫先生に「社会に出て勝負し、3年で人生を考える」と宣言して、あえて大学院には進学せず、学部を出てすぐ大手ゼネコンに入りました。名古屋で施工部門に所属して、現場に出て仕事をしました。

谷脇:いきなり現場へ、という選択をされたわけですね。

古阪:そうです。そこで目にしたのが、現場を支える職人さんたちの力の大きさと、一方で、透明性が欠如して職人たちが不遇になりやすい業界のひずみでした。「なぜこんなにしっかりとした現場の方がいるのに、仕組みが整っていないのだろう?」と。建築生産システムの再構築が必要だ、と痛感したんですね。そうした折に古川先生から声がかかり、京都大学に戻りました。建設産業行政との関わりも、そこから生まれていきました。

谷脇:先生の問題意識が、研究と政策の領域へ自然につながっていったのですね。基金との関わりで言えば、1978年頃から、建設業構造基本調査(現在の建設業構造実態調査)の委員としても関わっていただいた、と伺っています。

古阪:はい。基金が事務局を担っておられた調査で、当時はまだ承認統計になる前でしたから、調査内容を精査する議論をしていました。そこから、技能労働者の人材確保・育成の話が続いていく。特に基幹技能者の議論は、1995年の建設産業政策大綱を受けた流れのなかで、人材協の委員として検討に参加し、制度として立ち上げるところまで関わることができました。

重層下請けと「作ること」に偏重した構造課題

谷脇:長年、建設産業の合理化を学者の立場から推進してこられた古阪先生の目から見て、いまの建設業界をどうご覧になっていますか?

古阪:大きく言えば、構造課題は変わっていません。ひとつは重層下請け。元請から一次、二次、三次と連なって、三~四次あたりまで続く。現場の実態として当たり前になってしまっている。これは本当に根深い問題です。世界的に見ても日本は特異で、例えば中国では下請けは原則として一次まで、というルールがある。対照的に見えますね。

谷脇:何層にもなりやすい構造を抱えているのが特徴ということですね。もうひとつの課題として、先生は「新築偏重」、つまり改修・保全の弱さも指摘されています。

古阪:そうです。日本は「作ること」に最適化されていて、完成後の「維持管理」が薄い。建てた後のメンテナンスや修繕が、ほったらかしになりやすい。新しいものを作る技術や熱量はあるのに、それを長く使い続けるための仕組みや文化が弱いんです。

谷脇:昨今はマンションなども長寿命化が重要視されるなど、維持管理の価値が高まっていると感じます。BIMなどの普及で、管理・メンテナンスが変わっていく可能性はありますか?

古阪:徐々に改善は見られると思います。例えば国交省の庁舎の耐震補強のように、適切に保全すれば長寿命化は可能であるという実例が積み上がっていき、地方にも波及しつつあります。ただ、技術だけで解決する話ではなく、制度や文化も絡むので、時間はかかるでしょう。

重層化の背景にあるものとは

谷脇:重層化の話に戻ると、なぜ日本だけこうした構造が起きやすいのでしょうか。他国はどうしているのでしょう?

古阪:歴史的背景としては、棟梁型の文化が影響していると思います。古来、日本の建築は専門分野を持つ棟梁がチームを組んで仕事を進めるスタイルで発展してきました。各専門分野が独立して階層を形成し、結果として多重な下請け構造が温存される面があります。

谷脇:なるほど。発注のあり方も関係しますか?

古阪:関係します。海外は「人の組合せ」で機能分担していく発想が強い一方、日本は棟梁型の残り香があって、元請企業が技術面のみならず安全面でも全体の責任を負っているがごとくになりやすい傾向があります。加えて、土木は設計施工一体の発想が強く、建築は分離発注が多い、といった違いもある。政策議論の場で土木の発想が建築にそのまま持ち込まれると、建築特有の構造課題が見えにくくなることもあります。

谷脇:重層構造を改善していくためには、何が必要でしょうか?

古阪:まず、重層構造を是とするのか否とするのか、根本の判断が要ります。その上で、職能と発注の土俵を見直すこと。日本の枠組みだけで考えるのではなく、アジアの実務なども踏まえて、教育や制度を再設計していく必要がある、と私は考えています。

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