特集

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2025年10月号 No 572

建設業バックオフィスDXを進めるには

一般財団法人建設業振興基金

建設業は、他産業を上回る高齢化が進んでおり、近い将来に高齢者の大量離職による担い手の減少が見込まれることから、担い手の確保とともに、DX推進による生産性の向上を図ることが重要です。しかしながら、建設業は、他産業に比べてDXへの対応が遅れている傾向があります。特に、i-Constructionなどの導入が進むフロント業務に比べてバックオフィス業務においての遅れは顕著です。バックオフィス業務のDXを進め、フロント業務の生産性向上にも繋げることにより、建設業全体における担い手の減少を補完することが必要です。さらには、DXに伴う生産性向上による長時間労働の是正やDXによるイメージ向上により、新たな担い手の確保が期待されます。

このような問題意識の下、2024年7月、一般財団法人建設業振興基金に、有識者及び本財団職員等をメンバーとする「建設業バックオフィス業務のDXに関する勉強会」を設置し、建設業のバックオフィス業務のDXに係る課題や今後の方策について議論を重ねました。本稿では、勉強会における議論の内容・目指すべき方向性等について紹介します。

建設業のDXが遅れている理由

① 根強い紙文化

現状、建設業界には紙文化が根強く残っています。その背景には、基本的に建設業は単品受注生産をその特性としており、工事案件は元請から一次下請、二次下請と重層下請構造で発注され、各業者間で見積書や契約書、請求書など多数の書面が紙でやり取りされていることがあります。工事に伴い発生する検査で必要となる書類や図面も紙で作成され、そのまま作業で用いられることが一般的です。こうした背景から、デジタル化やペーパーレス化を一度に実施すると現場の混乱を招くおそれがあり、DXの推進を困難にしています。

② デジタル化に対する不十分な取組み

建設業 における生産は多数の関係者が関わって行われるものであることから、現場単位の省人化対応だけでは不十分であり、建設業界全体としてデジタル化を進めていくことが不可欠です。特に、デジタル化が遅れている地方の建設企業や下請企業については、経営者にDXに取り組む意志が求められます。また、建設企業内にDXを推進することができるデジタル人材が乏しいこともデジタル化対応が十分でない原因となっています。さらに事務の効率化を図るためには、行政機関などへの届出についてもデジタル化する必要がありますが、デジタル化に対応していない場合もあります。

③ 民間サービスが多様であることによる全体最適からの乖離

建設業界は、重層下請構造により生産が行われていることをその特色としています。元請企業は多数の下請企業に業務を発注する一方、一般に下請企業の特定元請企業や上位下請企業への専属度は必ずしも高くはなく、下請企業は複数の元請企業との取引関係にあるのが一般的です。したがって、「ピラミッド構造」というよりも「多対多構造」にあると言えます。
さらに現場においては、施工管理・調整・安全管理や、元請企業と下請企業などとの間の発注・契約・請求に関して、数多くの民間サービスが提供されており、元請企業は自社に適した民間サービスを導入することが多くなっています。しかし、これらのサービスは互換性のない場合が多く、そのため下請企業は元請企業が導入する各種民間サービスに対応する必要が生じています。また、下請企業が対応できない場合には元請企業は当該企業との間のみデジタル取引ができないなど、個々の企業のデジタル化により、かえって全体の効率性が阻害される事態となっています。

領域の設定

一般的に、バックオフィス業務とは、製造や営業、マーケティングといった、収益を生み出すフロント業務を後方からサポートする業務――例えば、総務、財務・経理、人事、労務、法務、その他の一般事務(内部管理業務)――とされています。

建設業についてみれば、建設現場がフロント業務となりますが、これを後方からサポートするバックオフィス業務は、同じ業務でも多岐にわたります。例えば、建設現場でも直接施工に関わる業務に加え、現場を支援する本社・支店、さらには発注者、取引先、行政機関等との間での様々な取引・調整業務があります。さらに、総務、経理等の内部管理業務も不可欠な業務として発生しています。

そこで、建設業における「バックオフィス業務」について、その対象が誰に向けられているかという観点から、業務の範囲を4つの領域に分類し、各々の領域ごとに、DXにおける課題を整理しました。これにより、各企業が自社の業務を見える化し、どの領域で合理化・効率化が必要か、その洗い出し、進捗などを把握する一助になるものと考えます。

なお、現場支援に関する業務(領域1)は、ここでは現場管理に関する業務(領域0)をサポートするものとしているため、現場管理分野を領域0としたうえで、領域1と合わせて課題整理を行っています。

建設業における業務範囲の4つの領域
領域0:現場管理分野
現場事務所において行う業務のうち、直接的施工以外の業務

領域1:現場支援分野

本社・支店が行う現場管理に関する業務のうち現場の技術者の業務をサポートするために行う業務

領域2:企業間取引分野

本社・支店で行う発注者や下請企業との契約・支払い等の取引業務

領域3:関係機関との調整・取引分野

現場ではなく本社・支店で行うべき国土交通省・厚生労働省等との間の許認可等に関する申請・届出業務及び金融機関等に対する申請・届出業務

領域4:内部管理分野

本社・支店で行う経理財務管理、労務管理などの自社の管理業務

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