特集
大阪・関西万博で探る“建設の近未来” 建設関係者が知っておきたい5テーマ・12施設
未知の鏡面外装と伝統的な「貫」構法
閉幕後に「最も記憶に残ったパビリオンは?」というアンケートをとったら、間違いなく上位に入りそうなのが「null2(ヌルヌル)」。筑波大学准教授でデジタルネイチャー開発研究センター長も務めるメディアアーティスト、落合陽一氏がプロデュースしたシグネチャーパビリオン。設計はデジタル技術を得意とするNOIZの豊田啓介氏が中心になった。
全面がメタリックな鏡面の膜材で覆われている。それだけでもインパクトがあるが、この膜材が動いて、映り込む景色がゆがむ。膜材の動きは2通りあり、1つは中に仕込まれた機械による直接的な動き。アームのようなもので膜を押したりひねったりして、表面を動かしている。ニュース映像などで、鏡面に映る風景がぐにゃっと伸びたり縮んだりしているのはこの動きだ。もう1つは音によるもの。これはウーファースピーカーからの音で動かしている。周波数によって振動が変化し、映し出される風景もぼやける。
鏡面の外壁は落合氏の提案から始まった。落合氏が鏡に注目したのは、このパビリオンのテーマが「いのちを磨く」であり、日本人は古来、銅鏡などの鏡を磨いて大切にしてきた歴史があることが理由という。薄い鏡面の膜素材はこのために開発したもので、膜材の専門メーカーである太陽工業とつくり上げた。
施設内も、鏡を使い、床、壁、天井をすべて映像で取り囲んだ空間だ。他のパビリオンでは、外観と内部の展示が無関係に感じるものが少なくなかったが、この施設は見事に一致していた。
「null2(ヌルヌル)」。場所は前ページの「EARTH MART」の南側。メディアアーティスト・落合陽一氏の本領発揮。施工はフジタ・大和リースJV
パビリオンではないが、やはり来場者の記憶に残りそうなのが「大屋根リング」だ。会場デザインプロデューサーでもある藤本壮介氏(藤本壮介建築設計事務所)が自ら設計した。1周約2㎞の巨大な円形空中歩廊で、世界最大の木造建築物としてギネス世界記録に認定された。屋根下の通路「グラウンドウォーク」と、屋上の「スカイウォーク」の両方で会場を回遊できる。
直径(外径)675m、幅約30m、高さ約12m(外側は約20m)。使用した木材は国産のスギ、ヒノキと外国産のオウシュウアカマツ(国産約7割、外国産約3割)。神社仏閣などに古来から使われてきた貫(ぬき)接合を使っており、「木を組んだ」ということが伝わりやすい。
施設が大きいため施工は3工区に分けて発注された。結果として、工区によって貫(ぬき)の方法が微妙に異なることが専門家の間で話題になっている。貫に用いるくさびの形状や金物の数などが3工区で異なるので、マニアックな楽しみとして知っておきたい。
「大屋根リング」。施工は大林組他JV(北東工区)、清水建設他JV(南東工区)、竹中工務店他JV(西工区)。建設費は約350億円。ギネス認定は建築面積の「6万1035.55m2」
イラスト・文・写真 宮沢洋 : 画文家、BUNGA NET編集長。
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