日本経済の動向

日本経済の動向
2022年2月 No.535

行政のデジタル化は何をもたらすか

デジタル庁の設置を決めた菅前首相に続き、岸田首相もデジタル臨時行政調査会とデジタル田園都市国家構想実現会議を立ち上げ、行政のデジタル化を強力に推進する方針を示した。今回は、政府が行政のデジタル化を推進する意図はどこにあるのか、それにより期待される効果はどのようなものかについて解説する。

岸田政権も行政のデジタル化を重点方針に

2021年9月1日、行政のデジタル化の司令塔を担うデジタル庁が発足した。2020年に特別定額給付金を支給した際の事務の混乱など、コロナ禍で日本政府や自治体のデジタル化の遅れが明らかになり、当時の菅首相が設置を決めたものだ。

2021年10月に就任した岸田首相も、デジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)、デジタル田園都市国家構想実現会議という2つの会議体を立ち上げ、行政のデジタル化を強力に推進する姿勢を鮮明にした。デジタル臨調では、まず関係省庁が順守すべき「デジタル原則」を定めた上で、規制や制度、行政の横断的な見直しプランを来春にとりまとめることを目指している。デジタル田園都市国家構想実現会議は、地方のデジタル化を通じて、人口減少・高齢化、産業空洞化など、地域が抱える課題を解決し、地域活性化につなげることを企図している。

目的は住民サービスの向上と行政の効率化

デジタル化はあくまでも手段であり、それを通じてどのような社会を構築するかが重要なことは言うまでもない。2020年12月に閣議決定された『デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針』では、デジタル社会が目指すビジョンを「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」としている。

こうした社会を実現するため、住民サービスの向上と行政の効率化を図っていくことが、行政のデジタル化の直接的な目的である。

住民サービスの向上については、例えば、出生届や婚姻届など、各種手続がオンラインで可能になれば、役所に出向く手間が省ける。また、転居時に一度届出をすれば運転免許証、銀行口座などの登録住所を変えることができるワンストップサービスが実現すれば、手続の煩雑さから解放される。これら各種手続のオンライン化は、必要人員・コストの削減を通じて、行政の効率化にもつながる。

これらを実行に移す上では、国や自治体のシステム標準化、マイナンバーカードの普及と銀行口座への紐づけなどが前提になる。政府は2025年度までに自治体のシステム標準化を目指しているほか、現状40%程度にとどまっているマイナンバーカードの普及を促進する方策を講じている。岸田政権下の初の経済対策である『コロナ回復・新時代開拓のための経済対策』では、マイナンバーカードの新規取得に5,000円相当、健康保険証としての利用登録者に7,500円相当、公金受取口座の登録者に7,500円相当のマイナポイントを付与する事業が盛り込まれた。

システム標準化、マイナンバーカードの普及と銀行口座への紐づけは、デジタル社会を築いていく上での基盤になるものであり、時間のかかる課題だが、着実に進めていく必要がある。

行政のデジタル化で広がる政策オプション

行政のデジタル化を進めることには、住民サービスの向上と行政の効率化だけでなく、将来の政策オプションを広げるメリットがある。

国や自治体のシステムが標準化され、国民のデータが適切な保護のもとで整備されることにより、政府は家計の所得や資産状況を把握できるようになる。それにより、今回のコロナ禍のような事態に際し、所得支援の対象を収入が減少した世帯などに限定して迅速に給付することが可能になり、政策の効率性が高まる。のみならず、有効な格差是正・低所得者対策の候補として挙げられながら、これまで実務上の困難さから実現しなかった給付付き税額控除(税金から一定額を控除し、控除額が課税額より大きい場合は差額を給付する措置)の導入も容易になるだろう。企業の売上・資産状況などのデータベース化も合わせて進めれば、景気悪化時にダメージを受けた企業に対し、迅速・適切な支援策を講じることも可能になる。

少子高齢化が進む日本では、増えにくくなる税収を効率的に活用する必要性がますます高まる。行政のデジタル化は、将来的にきめ細かい所得分配政策を可能にするインフラとなるものであり、岸田首相が目指す「成長と分配の好循環」には不可欠と言えよう。

 

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