日本経済の動向

日本経済の動向
2021年12月・2022年1月 No.534

赤と青の分断、米国で強まる地域の党派性

米国では、地域による党派性の違いが広がっている。共和党の支持者が多い地域と、民主党の支持者が多い地域では、規制などのビジネス環境に大きな違いがある。連邦政府と立地先の州政府で主導権を握る政党が違う場合には、企業が両者の板挟みになる場合もある。そこで今回は、企業の視点を踏まえながら、地域にまで広がる米国の党派対立の現実について解説する。

党派対立による分断が地域に波及

共和党と民主党の二大政党制が定着している米国では、厳しい党派対立が社会にも広がっている。ピュー・リサーチセンターが2021年春に行った国際的な世論調査では、米国の回答者の90%が、「異なる政党を支持する人の間に、厳しい対立がある」と回答している。日本(約4割)や同じ二大政党制の英国(約5割)など、他の先進国と比較しても、はるかに高い水準である。

そして見逃せないのは、支持政党による分断が、地域に波及していることだ。米国では、共和党の支持者が多い地域と、民主党の支持者が多い地域が、はっきりと分かれてきている。

分かりやすいのは、州による違いである。2000年と2020年の選挙を比較すると、全米50州のうち、大統領、連邦上院議員(各州に2人ずつ)、州知事、そして州議会の多数党に関して、全て同一の政党を選んだ州が、22州から38州へと増加している。現在の米国では、大統領は民主党のバイデン氏だが、17の州では、上述の4つの選挙において、全て共和党が選ばれている。

さらに、州より小さな単位でも、地域で有力な政党の違いは強まっている。全米で435ある連邦下院議員の選挙区では、大統領選挙と下院議員選挙で同じ政党の候補者が多数の票を得る割合が、2000年の80%から2020年には96%へと上昇している。

米国では、共和党の勢力が強い州を「赤い州」、民主党が優勢な州を「青い州」と呼ぶのが習わしとなっている。現在の米国では、州より小さい単位でも、赤と青の違いが鮮明になっている。

党派性の違いがビジネス環境に反映

地域による党派性の違いは、企業がビジネスを行う際の環境の違いにつながる。地方政府の政策には、その地域で優勢な党の支持者の意向が反映されやすいからだ。

一般的に、共和党の勢力が強い州では、企業活動への規制が緩い傾向にある。電気自動車(EV)大手のテスラなど、米国ではカリフォルニア州(民主党が強い州)からテキサス州(共和党が強い州)に本社を移転する企業が目立つ。背景には、カリフォルニアでの家賃などの高騰に加え、テキサスにおける規制の緩さが理由のひとつとして指摘されている。

地域による党派性の違いは、社員の確保にも影響を与える。例えば民主党が主導する州では、LGBTQなどとよばれる性的少数者や、移民に寛容な政策がとられやすい。気候変動への対応も積極的だ。こうした政策に共感する社員であれば、たとえ経営者が共和党の優勢な州への移転を選んだ場合でも、民主党の勢力が強い州での勤務を希望する可能性がありそうだ。

どちらの政党が強い州で活動するかは、企業にとって大切な判断である。また、地域の党派性が強まるほど、実施される政策の地域差は広がる。その地域における二大政党の力関係を展望すれば、今後の政策やビジネス環境の方向性を予測する手掛かりにもなるだろう。

連邦政府と州政府の板挟みになる場合も

企業にとって悩ましいのは、二大政党が好む政策の違いによって、連邦政府と州政府の板挟みになる展開だ。現在の米国では、共和党が優勢な州が、民主党のバイデン政権が率いる連邦政府の政策に反旗を翻す事例が目立っている。

象徴的なのが、コロナ禍への対応である。共和党が優勢な州では、マスク着用の義務づけなど、政府による強制的な感染対策に批判的だった。バイデン政権が企業に対して、従業員にワクチン接種を義務付けるよう求めた際には、共和党が強いテキサス州が、逆に企業によるワクチン接種の義務付けを禁ずる行政命令を出している。

近年の米国では、連邦政府と州政府が、互いの政策の合法性を巡り、しばしば裁判で争っている。コロナ禍への対応はもちろん、環境規制の是非なども、法廷で争われやすい案件である。

党派対立が厳しさを増す米国では、政治を意識せずにビジネスを進めるのがより難しくなっている。企業にとっては、立地を巡る判断ですら、政治とは無縁でいられないのが現実だ。

 

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