建設経済の動向

建設経済の動向
2021年11月 No.533

今こそ学んでおきたいグリーンインフラ

ここ数年、グリーンインフラという言葉を見聞きする機会が急速に増している。「環境に配慮したインフラのことか」と考える人も多いだろう。だが、この言葉が持つ意味はもっと広く重い。新しい社会資本整備の重要キーワードであるとともに、今後の発注方針や受注戦略において極めて重要な概念になってくるはずだ。

「グリーンインフラ」。最近、この言葉を耳にされた方は多いのではないだろうか。この言葉が持つ意味は、単に「環境にやさしい」という内容だけではない。自然の持つ多様な機能を生かして社会課題の解決を図るインフラという概念を持たせている。米国で発案された社会資本整備の手法で、既に欧米を中心に広がりを見せ始めている。

日本国内での建設分野の「グリーン」については、どちらかといえば建築分野での取り組みが目立っていた。実際にこの10年くらいを見ても、省エネ法の適用範囲を拡大するとか、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)と呼ぶ建物の環境性能を評価する手法を普及させていくといった施策が次々に講じられてきた。

省エネ法の適用基準については、戸建て住宅などでの取り組みが甘いという批判はあるものの、様々な施策の展開によって環境とそれに関連して生まれてくる効果や性能などを明確にしていこうという動きは加速している。さらに、建築分野におけるグリーンビルディングの考え方は、環境性能という部分だけにとどまらず、健康などとの関わりにも発展しつつある。

土木の世界でも、グリーンインフラの持つ意味が重みを増してきた。国は「グリーンインフラ」への投資を予算で拡充する方針を明確に打ち出している。

今後のインフラ整備で注目されている治水インフラにその代表例がある。「霞堤」だ。霞堤は開口部を設けた不連続な堤防で、河川氾濫時に水をあふれさせて堤防の損傷や決壊を防ぐ機能を期待できる。

洪水を完全に抑え込むことはできない施設だが、洪水時に背後の水田などに肥沃な土砂を運んだり、流れが緩やかな部分に生物を避難させたりするなど環境性能に優れる。河川の水を下流へ安全に流すことだけを求めてきた堤防システムとは一線を画すインフラが見直され、新たに建設されようとしているのだ。

土木施設にも健康の視点を 自治体への波及は必至

緑の多さや温暖化ガスの削減量といった従来型の環境指標だけでなく、建築での取り組みにならうように、健康の視点でインフラの価値を見いだす兆しも出てきた。歩行を促す街づくりはその代表例といえる。植物が持つ、人をリラックスさせる効果などを期待して、交通事故を防ごうとするインフラの整備事例も生まれている。

グリーンインフラへの取り組みは、国をはじめとする規模の大きな発注機関だけでなく、自治体の事業などにも波及していく見通しだ。国交省では、グリーンインフラの計画から事業化までのプロセスを分かりやすく示すガイドラインの作成を図る。

既にグリーンインフラの概念に沿ったインフラ整備を推進している自治体も存在する。加えて、国や自治体といった行政側が外部組織への委託によって、事業費を抑えつつ、整備効果を高めるような取り組みも出てきた。将来の受注戦略を磨くうえで、グリーンインフラの動向を追いかけておくことが欠かせなくなりつつある。

 

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