日本経済の動向

日本経済の動向
2021年10月 No.532

コロナ禍でも堅調さを維持する企業のM&A

コロナ禍にもかかわらず、企業の合併・買収(M&A)を巡る動きは活発だ。中でも存在感を増しているのが中国の多国籍企業である。米中対立を受けて、彼らを取り巻く環境は大きく変化したが、中国企業の世界進出は着実に進展している。今回は、環境変化を踏まえた中国多国籍企業の取り組みと、そこから得られる日本企業への示唆について解説する。

コロナ禍でも活発な企業のM&A

世界のM&A件数(完了ベース)は、世界的なロックダウンとなった2020年4-6月期こそ2割以上落ち込んだが、通年でみれば3万8千件と、ほぼ前年並みの水準を確保した。21年入り後は、上期だけで2万4千件を上回り、過去最高のペースとなっている。コロナ禍で加速したデジタル化や気候変動への対応に加え、ポストコロナを見据えた事業構造の転換に取り組む企業が積極的にM&Aを活用しているとみられる。

国別の内訳をみると、M&A件数のほぼ半数を占める米国がけん引する構図だが、コロナ後にその存在感を高めているのが、既に米国に次ぐM&A大国となった中国である。コロナ禍に見舞われたにも関わらず、20年の中国企業による買収件数は、前年比+15.1%の4,873件と過去最高だった18年を上回った(図表)。

(注)21年は1-6月期の合計値
(資料)Bloombergより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

21年上期については、対前年比5割増の2,982件となっている。これは18年上期と比べても30%以上多い水準だ。しかもその8割をクロスボーダー取引、つまり外国企業の買収が占めている。

世界で存在感を増す中国の多国籍企業

米国を筆頭に、経済安全保障の観点から、中国企業による自国企業買収への警戒感を強める国は増えているが、M&A件数が示す通り、中国企業の世界進出は着実に進んでいる。実際、米国のコンサルタント会社の集計によると、国境を越えて事業を行う中国の多国籍企業はおよそ3,400社と世界で最も多い。その数は、米国と欧州の多国籍企業を合わせてようやく肩を並べるほどの規模だ。また、海外売上高割合が3割を超える中国企業は100社以上あり、そのうち27社は同7割超と、単に企業数だけでなく、事業ポートフォリオの面からも、中国企業の多国籍化が進んでいる様子がうかがえる。

さらに中国企業が海外企業を買収する目的も近年変化しつつある。従来は海外企業が保有する技術や人材、知的財産、ブランドの獲得を目的とする買収が多数を占めていたが、最近では中国が優位性を有する通信機器やバッテリーなどの製造拠点のほか、ゲームや動画アプリといったソフトウェアの研究開発・販売拠点の整備を目的としたものが増えている。加えて買収までには至らないものの、現地企業との提携を狙った出資を選択する中国企業が足元で散見されるようになってきた。日本でも通信機器のファーウェイやオンラインゲームのテンセントといった中国企業の名前を聞いたことがある読者も多いのではないか。テンセントはゲーム配信会社として知られているが、3月には楽天に出資したことが日本で話題となった。

日本企業にも求められる「したたかさ」

米中対立の激化にもかかわらず、世界で存在感を高める中国企業だが、その背景にあるのは彼らの「したたかさ」だ。「世界の工場」として蓄積したノウハウはもとより、高い競争力を有する人工知能や通信などの次世代技術を通じて、世界への影響力を強めている。また西側諸国を中心に中国脅威論が台頭するとみるや、現地生産の拡大や現地企業との提携を重視する方針を打ち出すなど、進出先の政府・世論を懐柔する術にも長けている。

もちろん成功の背景に中国当局の後押しがあることは否定しないが、それだけで今日の地位が築かれたと解釈するのは正しくない。やはり、提供する商品・サービスが、世界にとって必要だと思ってもらうこと・思わせることが重要であり、それに成功したことが今の中国多国籍企業の礎となっているとみるべきだ。日本企業も世界経済の発展に貢献できる要素技術という点では、中国企業に見劣りしない。その持てる技やノウハウをどう世界に売り込んでいくのか、見習うべきは中国多国籍企業のしたたかさなのかもしれない。

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