経済動向

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2021年10月 No.532

生活道路で新たな安全対策が進む

千葉県八街市内で小学生がトラックにはねられた交通事故は、日本の生活道路の危うさを改めて露呈した。生活道路における交通安全対策は、喫緊の課題となっている。対策にかけられるコストや人手が限られるなか、効果的な対策をどのように講じるのか。データを活用したこれからの道路改修トレンドを解説する。

千葉県八街市内で2021年6月に小学生が死傷した交通事故は記憶に新しい。通学路といった身近な道路で子どもが巻き込まれる交通事故は、過去にも繰り返されてきた。日本は先進7カ国の中でも、生活道路での事故リスクが高い。人口10万人当たりの歩行中・自転車乗用中の交通事故による死者数は米国に次ぐ。幹線道路に比べ、生活道路での交通事故件数の減少速度は鈍い。

生活道路での事故が後を絶たない背景には、日本の生活道路の狭さがある。狭い生活道路での交通事故を防ぐうえで効果的な方法の1つは、生活道路を通る車を減らすこと。車両通行時には道路下に収納できるライジングボラードなど、物理的な障害物が対策の代表例だ。ただし、ライジングボラードの設置には掘削工事を伴い、コストがかなりかさむ。実装へのハードルは高い。

狭い道路への安全対策として効果的な方法はもう1つある。通過する車の速度を落とすことだ。自動車の速度が時速30km以下になれば、事故時の死亡リスクは大きく減る。そこで警察と道路管理者は、制限速度を時速30km以下に設定する「ゾーン30」の整備を推進。2021年3月末までに全国4,031カ所の整備を終えている。

ただ、ゾーン30として速度規制をかけても、道路のハード側の改善が不十分であれば、確実な速度抑制は難しい。ここで実効性のある対策として期待されているのが「ハンプ」だ。ハンプとは道路上に設ける凸状に盛り上がった施設。道路に物理的な“山”を設けて、高速で乗り上げた車に衝撃を与える。運転手の不快感が大きいので、速度抑制効果が高い。

速度抑制の物理的対策が有効 ビッグデータで対策箇所絞る

ハンプの難点は、設置に手間やコストがかかる点だ。ハンプ自体は100万円程度だが、舗装以外に排水処理などを行う必要があり、設置コストも1カ所当たり約200万円を要する。手軽に設置できるわけではないので、対策箇所を絞り込まなければならない。

そこで、整備に当たって交通ビッグデータを活用する事例が増えつつある。国土交通省が提供するETC2.0データの分析結果を使い、通行車両による速度超過や急ブレーキに加え、抜け道利用などの発生箇所を確認。分析結果を活用して対策箇所を絞り込むのだ。既に、この方法で効果を上げた事例もある。

2019年2月に完成した横浜市港北区大倉山3丁目地区の生活道路の改修は、その代表例だ。近くに駅や商店街、学校があり、朝夕は通勤・通学の歩行者や自転車が数多く通行する。昼も買い物客などでにぎわう。ところが、改修前は周辺の幹線道路の抜け道として高速で進入する車が少なくなく、交通事故が頻発していた。

このエリアで通行車両のETC2.0データを分析したところ、時速30km以上で走る車が多い道路があった。その結果を基に、ハンプや道路幅を狭くする狭さくといった対策を講じたところ、時速30km以上で通過する車両の割合は、対策前の19%から5%前後にまで減った。

政府は2021年3月末に「第11次交通安全基本計画」をまとめた。今後5年間で世界一安全な道路交通の実現を図る。ビッグデータや新しいハード対策を活用した効果的な改修が加速する可能性が高まっている。

横浜市港北区大倉山3丁目地区の道路に設置したハンプ(写真:日経クロステック)

 

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