経済動向

経済動向
2021年7・8月 No.530

コロナ禍で再び注目を集めるベビーブーマー世代

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、米国では新たなオンライン消費市場としてベビーブーマーに注目が集まっている。日本でも団塊世代を中心に高齢者のオンライン・シフトが進んでおり、消費行動の変化が鮮明だ。こうした変化はコロナ禍が収束した後も継続する可能性が高い。そこで今回は、ポストコロナの小売業が取り組むべき課題について解説する。

米国で注目されるベビーブーマー世代

新型コロナウイルスの感染拡大は我々の生活を一変させた。感染抑制を目的に世界各地で行動制限が課され、旅行や外食など対人型サービス業を中心に深刻な打撃を受けたのは周知の通りである。一方、社会のデジタル化が一気に加速したことで、成長余地が大きく拡大したビジネスも少なくない。オンライン消費はその典型といえる。とりわけ外出制限を受けて、生鮮食品をはじめとした生活必需品のネット通販利用が急増した。

そうした中、米国では今、ベビーブーマー世代(1946~64年生まれ)に再び注目が集まっている。コロナ禍において、重症化リスクの高さが高齢者のオンライン・シフトを後押しした結果、ベビーブーマー世代のオンライン消費が他の世代に比べて大きく伸びているからだ。事実、米国の調査会社ニールセンによると、65歳以上のオンライン消費額は、前年比53%増と高い伸びを記録した。生活必需品に限らず、ベビーブーマー世代を対象にしたインターネット交流サービスも新規加入者が大きく増えたそうだ。オンライン消費といえば、デジタルネイティブといわれる若者世代の特権のようにとらえられがちだが、コロナ禍をきっかけに、そうした構図は大きく変わろうとしている。

日本でも拡大する高齢者のオンライン消費

日本も例外ではない。最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月以降、高齢世帯のオンライン・シフトが確認できる。総務省の「消費状況調査」をもとに、年齢階層別のネットショッピング利用割合をみると、水準こそ低いものの、高齢世帯の上昇ペースは全体平均と比べてもそん色ないことがわかる(図表)。

(注)後方3か月移動平均値
(資料)総務省「消費状況調査」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

1947~49年生まれの団塊世代を含む70~74歳は、昨年3月対比で9.7%ポイント上昇と、上昇幅では年齢階層別でトップとなっている。

また昨年3月対比の月平均利用額増加率でも、70~74歳は53.7%と、平均(40.5%)を大きく上回る伸びとなった。前後の年齢階層(65~69歳:15.7%、75~79歳:40.4%)と比較しても大きく伸びており、その適応力たるや、日本の高度経済成長を支え、数々のブームを形成してきた団塊世代の面目躍如といったところだろう。

ポストコロナの小売業に求められること

高齢者のオンライン・シフトが進む背景には、感染防止もさることながら、利用を機にオンライン・ショッピングの利便性を再認識したことがある。買い物に行く手間や時間が省けるほか、飲料品など重い荷物も気にする必要がないからだ。コロナ禍が収束した後も、高齢者を中心にオンライン・シフトの動きが続くとみた方がよいだろう。その際にポイントとなるのが、商品検索のしやすさや、配送手配を含む決済手続きの簡素化だ。合わせて高齢者に根強いネット利用に対する不安・不信を軽減する安全性の確保も重要となるだろう。

またオンライン・シフトに伴い、リアル店舗の戦略も練り直しが迫られることになる。ただし、買い物は利便性のみを追求すればいいというものではない。時間をかけて商品を見極めたり、販売員のアドバイスを聞くことで満足度が上がることもある。中には、お得意様として、お店との「つながり」を重視する人もいるはずだ。リアル店舗の強みをいかに発揮するかが勝負どころとなる。

コロナ禍をきっかけに小売業をとりまく環境は大きく変化したが、勝負の行方はまだ混とんとしている。リアル・デジタルに関係なく、顧客の求める価値に真摯に向き合い、ビジネスモデルを柔軟に変化させる事業者には、大きなチャンスが広がっていると言えるだろう。

 

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