日本経済の動向

日本経済の動向
2021年5月 No.528

米国のインフレ懸念は本物か 米国経済の回復とインフレの行方

3月11日、米国で総額200兆円規模の景気対策を盛り込んだ米国救済法が成立し、経済回復を後押しすることが期待される。米国での新型コロナウイルスの感染者数は引き続き高水準だが、ワクチン接種も進んでいる。米国の景気回復は日本にとっても朗報だが、同時にインフレ懸念が浮上していることには留意が必要だ。そこで今回は、米国のインフレ動向について考察する。

米国で浮上するインフレ懸念

米国バイデン政権の発足から3カ月超が経過した。バイデン政権の最優先課題である新型コロナウイルスの感染抑制と経済の回復に向けて、先ずは順調な滑り出しとなったと言える。ワクチン接種も順調に進んでいる。トランプ前政権の置き土産でもある昨年末の100兆円弱の景気対策が、2021年に入った後の景気の追い風となっている。先般成立したバイデン政権としての景気対策第一弾は総額200兆円にも及び、今春以降の景気をさらに押し上げることになる。

一方、米国経済が加速する中でインフレ懸念が浮上しているのも事実だ。企業に対するアンケート調査では、半導体、鉄鋼、アルミなどでの需給がひっ迫しており、入荷の遅延、仕入価格の上昇に見舞われている企業が多くなっている。コロナ禍でサービス業、なかんずく飲食、宿泊、娯楽などのサービス業で需要が抑制される一方、製造業部門は世界的に回復が進んでいることが、需給引き締まりの背景にある。巨額の財政拡大も市場のインフレ懸念をあおっている。

物価の上昇は短期的なものに

2021年前半は技術的にもインフレ率が上昇しやすいことにも注意する必要がある。新型コロナウイルスの感染拡大による経済収縮に伴い、20年前半にインフレ率が大きく低下したことの反動が出るからだ。

しかし、インフレの行方を見極める上で重要となってくるのはそうした表面的な前年比での数字でも、また、需給ひっ迫に伴う短期的な数字でもなく、中期的な物価の基調である。現金給付や新型コロナウイルスの感染収束期待に伴うペントアップ需要(これまで抑制されていた需要)は確かに短期的にはインフレを押し上げるものの、その持続性には疑問がある。中長期的な需要拡大に対する確信が持てない限り、経営者は賃金の引き上げには慎重とならざるを得ず、最終的な価格転嫁は限定的になるのではないか。

米国経済が徐々に正常化に向かえば、今後の財政支出規模は抑制されてくるだろう。議会上院での与野党の議席数が拮抗していることもあり、更なる財政拡大へのハードルが高くなると考えるのが自然である。既往の財政支援が失効することにより、景気に対してブレーキとなることが考えられる。

インフレ率は短期的にはFRB(連邦準備制度理事会)が目標としている2%を超えるものの、それは一時的なものにとどまり、徐々に落ち着いてくると見るのがメインシナリオである(図表)。

図表 米国インフレ率の推移

(注)インフレ率はコア個人消費デフレーター
(出所)米国商務省資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

平均インフレ目標政策、すなわち、目標に対する短期的なインフレの上振れを許容する政策を採用しているFRBは、当面現状の金融緩和策を維持する公算が大きい。

注目される米国長期金利の行方

米国経済の回復が世界経済の拡大をけん引しており、日本経済にとっても下支えとなることが期待されるところだ。今後の世界、そして日本経済への影響を見極めていく上でカギを握ってくるのが米国の長期金利の動向である。

インフレ懸念に伴う米国の長期金利上昇がドル高円安要因となっており、日本の経済や株式市場にとって好影響を及ぼしている。緩やかな、適度な金利上昇であれば問題は少ないが、金利の急上昇には留意が必要だ。リスクシナリオにはなるが、急激な金利上昇が米国の株式市場の混乱をもたらし、グローバルな株安と急速な円高を引き起こす可能性もある。その際には新興国から資本が流出し、世界的な金融市場の混乱の恐れがあることには留意したい。

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